2台のピアノのための協奏曲 変イ長調 (メンデルスゾーン)

2台のピアノのための協奏曲 変イ長調 MWV O6

フェリックス・メンデルスゾーンの「2台のピアノのための協奏曲 変イ長調 MWV O6」は、彼が1824年に作曲した初期の重要な作品の一つです。当時わずか15歳であった若き天才が、その並外れた音楽的才能を発揮し始めた時期に生み出されました。

作曲の背景と影響

この協奏曲は、メンデルスゾーン家の自宅で行われていた恒例の日曜朝の音楽会のために構想されたと考えられています。具体的には、作曲者自身が彼の姉であり、優れたピアニストであったファニー・メンデルスゾーンと共に演奏することを目的としており、作曲された日付は1824年11月12日と記されています。興味深いことに、同時期に書かれた他の初期作品、例えば「2台のピアノのための協奏曲 ホ長調」とは異なり、本作には当時メンデルスゾーン家の家庭教師としてベルリンを訪れていた、高名なピアニスト兼作曲家イグナーツ・モシェレスからの影響が色濃く見られます。1824年に招聘されたモシェレスは、若いフェリックスとファニーにとって大きな刺激となり、彼らの創作活動に新たな視点をもたらしたと言えるでしょう。

作品の構造と評価

本作の大きな特徴は、2台の独奏ピアノにほぼ均等な役割が与えられている点です。これは、一方のソリストが主導し、もう一方がそれを支えるという一般的な協奏曲の書法とは一線を画しています。両ソリストが対等に音楽的な対話を行う形式は、特定の場面で冗長性や散漫さを引き起こすという批判を受けることもありますが、これは15歳という非常に若い作曲家によって書かれた作品であることを考慮して評価されるべきです。未熟な点があるとしても、その中に見られる若々しいエネルギー、果敢な音楽語法、そして将来の大家としての片鱗は、この作品の価値を十分に示しています。

初演と手稿譜の再発見

作曲から約3年後の1827年2月20日、この協奏曲は現在のポーランド領であるシュチェチンで公開初演されました。この時の編成は、元の構想から変更され、2台のピアノと弦楽合奏のために編曲された形で行われました。独奏は作曲者メンデルスゾーン自身と、シュチェチン大聖堂のオルガニストであり、作曲家、バリトン歌手、指揮者としても活躍していたカール・レーヴェが務めました。また、レーヴェはこの初演を主催した人物としても知られています。

この協奏曲の手稿譜は、メンデルスゾーンの「2台のピアノのための協奏曲 ホ長調」と共に、長らく行方不明の状態が続いていました。しかし、第二次世界大戦後の1950年、これらの手稿譜がベルリン州立図書館で発見されます。そして1961年になってようやく出版され、その存在が広く知られるようになり、演奏される機会も増えました。

演奏時間と楽器編成

この協奏曲の標準的な演奏時間は、おおよそ42分です。

楽器編成は、以下の通りです。

ピアノ独奏：2台
フルート：2
オーボエ：2
クラリネット：2
ファゴット：2
ホルン：2
トランペット：2
ティンパニ
弦五部：ヴァイオリンI, II、ヴィオラ、チェロ、コントラバス

楽曲構成

楽曲は、伝統的な3つの楽章構成をとっています。

第1楽章：アレグロ・ヴィヴァーチェ（Allegro vivace） 変イ長調 4/4拍子
快活で生命力に満ちたテンポで始まります。冒頭に現れる主題は、モーツァルトの「ピアノ協奏曲第12番」の主題を想起させるような親しみやすい性格を持っています。しかし、その後の音楽はモーツァルトの影響から離れ、若きメンデルスゾーンらしい華麗なパッセージやヴィルトゥオーゾ的な技巧を存分に盛り込みながら展開されます。この楽章には、独奏者のためのカデンツァは含まれていません。

第2楽章：アンダンテ（Andante） ホ長調 6/8拍子
ゆったりとした、流れるようなテンポの中間楽章です。主調の変イ長調とは遠い関係にあるホ長調が用いられており、穏やかで内省的な雰囲気を作り出しています。その抒情的な美しさは、後に作曲された傑作「ピアノ協奏曲第1番」の有名な中間楽章にも通じるものがあります。

第3楽章：アレグロ・ヴィヴァーチェ（Allegro vivace） 変イ長調 4/4拍子
再びアレグロ・ヴィヴァーチェのテンポに戻り、輝かしい終楽章へと移行します。冒頭で第1ピアノによって提示される主題は、非常に陽気で躍動感に満ちており、聴く者の心を浮き立たせます。この主題が2台のピアノとオーケストラの間で巧みに受け渡され、様々に変奏・発展していく中で、楽曲は熱狂的なフィナーレへと向かいます。

まとめ

この「2台のピアノのための協奏曲 変イ長調」は、まだ十代のメンデルスゾーンが持っていた並外れた才能と旺盛な創作意欲を示す貴重な証拠です。姉との共演というアットホームな場から生まれ、やがて公開の場で演奏され、長年の沈黙を経て再発見・出版されるという劇的な経緯をたどりました。モシェレスからの影響や、後の彼の作品に通じる抒情性・ヴィルトゥオーゾ性など、若き巨匠の萌芽を随所に感じさせる、メンデルスゾーンの初期作品研究において重要な意味を持つ作品です。

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