2003 YN107

2003 YN107は、太陽系内の比較的狭い領域を公転する、数多くの地球近傍小惑星の一つです。その中でも極めて小さな分類に属し、直径はおよそ10メートルから30メートルの範囲と推定されています。このサイズは、より小さな流星物質とより大きな小惑星との境界線に位置します。

この小惑星は、2003年12月20日にリンカーン地球近傍小惑星探査（LINEAR）プロジェクトによるサーベイ観測の中で発見されました。発見当時から地球軌道に近い位置を公転していることが確認されており、アメリカ航空宇宙局（NASA）の地球接近天体監視リストに登録されています。計算によると、地球に最大で約0.06天文単位（約900万キロメートル）まで近づく可能性があります。

2003 YN107の最も特筆すべき点は、その独特な公転軌道にあります。この小惑星は、地球の軌道と非常に類似した、太陽を中心としたほぼ円に近い軌道を描いており、太陽の周りを一周するのに要する時間（公転周期）も地球の1年と極めて近いです。このような軌道特性を持つ天体は、しばしば地球との間で軌道共鳴と呼ばれる現象を引き起こします。

特に注目されたのは、1996年から2006年にかけての約10年間におけるその挙動です。この期間中、2003 YN107は地球から常に0.1天文単位（約1500万キロメートル）以内の比較的近い距離を保ち続けました。太陽の周りを公転しながらも、地球の公転と足並みを揃えるように動き、地球から見た場合にはあたかも地球の周りをゆっくりと周回しているかのように見えました。このような状態にある天体は「準衛星（クエーサイ・サテライト）」と呼ばれます。

2003 YN107は、この準衛星という軌道タイプを持つ天体として、初めてその存在が確認された例として科学史に名を刻みました。ただし、準衛星は地球の重力に強く束縛されているわけではなく、月のような真の衛星とは異なります。その軌道はあくまで太陽の強い重力に支配されており、地球のそばを一時的に、見かけ上周回しているに過ぎません。現在までに、(10563) イジュドゥバル、(54509) YORP、(66063) 1998 RO1、(85770) 1998 UP1、(85990) 1999 JV6など、複数の小惑星が準衛星候補として同定されています。

準衛星状態の期間（1996年以前および2006年以降）を除くと、2003 YN107は地球の公転軌道に沿った、いわゆる馬蹄形軌道を描くことが分かっています。これは、地球と1対1の軌道共鳴状態にある天体にしばしば見られる軌道タイプであり、別の小惑星2002 AA29も同様の軌道特性を示します。このような準衛星軌道と馬蹄形軌道の間を周期的に遷移することは、地球との軌道共鳴にある小天体にとって珍しいことではないと考えられています。例えば、小惑星2002 AA29は約600年の周期で準衛星状態に移行することが計算によって示されています。

このように、2003 YN107はその特異な軌道によって、地球と小天体との複雑な軌道共鳴や準衛星という現象を理解する上で重要な観測例となっています。

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