2010 JL88

概要

2010 JL88は、太陽系に存在する地球近傍天体の一つで、アポロ群に分類されています。この天体は、2010年 5月15日にオーストラリアのサイディング・スプリング天文台にて発見されました。地球近傍天体とは、太陽の周りを公転する際に、地球の軌道に比較的近い経路を通る小惑星や彗星などの天体を指す言葉です。

物理的な性質

この天体は、標準等級が26.779と測定されており、非常に暗く、観測が難しい性質を持っています。その推定される大きさは直径約30メートル、質量は約4,500トンと見積もられています。この比較的小さなサイズに反して、2010 JL88は際立った物理的特徴を持っています。

極めて速い自転

2010 JL88の最も注目すべき特徴は、その自転速度です。この天体の自転周期は約24.5862秒、つまり約25秒という非常に短い間隔で一回転しています。この速度は、2013年までに発見・観測されていた太陽系内の天体の中で最も高速な自転記録でした。それまで地球近傍天体として最速だった2008 HJの約42.7秒という記録を大幅に更新したのです。さらに、2010 JL88は、自転周期が30秒を下回る地球近傍天体として初めて確認された天体でもあります。この自転速度の記録は、その後、2014 RC（約16秒、ただし確実性は低い）や2015 SV6（約18秒）といった天体が見つかることで更新されましたが、2010 JL88が一時的に保持した記録は、小惑星が持ちうる自転速度の限界を示唆するものでした。2012年の時点では、太陽系内で自転周期が1分（60秒）よりも短い天体は、2010 JL88、2008 HJ、そして2010 WA（約31秒）のわずか3つしか知られていませんでした。

軌道の特性と惑星との相互作用

2010 JL88は、太陽の周りを約620地球日（およそ1.7年）かけて一周する公転軌道を持っています。その軌道は、太陽に最も近づく近日点が金星軌道にほぼ接してわずかに内側に入り込み、太陽から最も遠ざかる遠日点が火星軌道の外側まで達しています。このように、2010 JL88の軌道は、金星、地球、火星の三つの惑星の通路と交差しています。また、軌道の傾きも小さいため、これら三つの惑星それぞれに衝突する潜在的なリスクを抱えています。そのため、これらの惑星に比較的頻繁に接近する機会があります。

特に地球に対しては、発見直後の2010年5月17日6時51分（協定世界時）に大きく接近しました。この時、地球からの距離は約38万5000kmで、月軌道（平均約38万4400km）のすぐ外側にあたる位置でした。過去の計算によると、これは1930年11月5日の約224万km以来の近さであり、1900年から2178年までの期間で最も近い接近だったことが分かっています。さらに、この接近時には、月には同日11時38分に、地球への最接近距離の約半分にあたる約19万0500kmまで、地球よりもさらに接近するという特異な動きを見せました。

将来の地球への接近としては、2057年から2086年の間に、衝突リスクが考慮される距離まで約18回接近することが予測されています。しかし、これらの接近による地球への衝突の可能性は極めて低いと評価されています。具体的には、潜在的な衝突リスクを示す国際的な指標であるトリノスケールでは0、より専門的なパレルモスケール累計では-6.85となっています。トリノスケール0は無視できるリスクを意味し、パレルモスケールが負の値であるほどリスクは低いことを示すため、少なくともこの期間に限れば、実際に地球に衝突する危険性はないと考えられています。

もし仮に、2010 JL88が地球に衝突した場合、衝突時の速度は約18.57km/sに達すると推定されており、放出されるエネルギーは、広島に投下された原子爆弾約14.5個分に相当する0.19メガトン（約800兆ジュール）になると見積もられています。これは、比較的小さな天体であっても、無視できない破壊力を持つことを示しています。

他惑星への最接近

軌道計算が行われた期間において、2010 JL88が金星に最も接近したのは1997年2月20日で、距離は約556万kmでした。火星への最接近は2038年1月22日に予測されており、距離は約548万kmと計算されています。

公転と自転の日数計算

地球時間で約620日の公転周期を持つ2010 JL88ですが、もしこの天体の約25秒の自転周期を1日と仮定して日数を計算すると、公転を一周する間に約218万日という驚くべき日数が経過することになります。これは、極端に速い自転を持つ天体ならではの、時間感覚の大きな違いを示す興味深い例と言えるでしょう。

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