2015年韓国におけるMERSの流行

2015年5月、韓国でMERS（中東呼吸器症候群）コロナウイルスの感染が拡大しました。この流行は、最初の感染者が入院していた病院での院内感染が発端となり、国内に広がる事態となりました。韓国政府は終息宣言を出しましたが、患者の再陽性により一時延期されるなど、様々な混乱が見られました。

経緯

流行の始まり

最初の感染者は、2015年4月下旬から5月初旬にかけて中東に出張した68歳の男性でした。帰国後の5月11日に発症し、5月15日から17日の間に京畿道平沢市の平沢聖母病院に入院。5月20日にMERSと確定診断されました。

この病院では、病室の構造上の問題から、感染者が入院していた部屋に排気口がなく、エアコンを通じて院内感染が広がりました。当初、韓国の防疫当局はWHOのガイドラインに基づき、感染者から2メートル以内の接触者のみを監視対象としていましたが、結果的に病院の8階に滞在していた人々に感染が広がりました。

二次感染

最初の感染者の隔離後、すぐに看護していた妻にも呼吸器症状が現れ、陽性反応が出ました。さらに、同じ部屋に入院していた別の患者も感染が確認され、感染者数は3人に増加しました。

感染の拡大

5月26日には、3番目の感染者の息子が香港へ渡航し、到着時に発熱と咳の症状があったにもかかわらず、検疫官に対してMERS患者との接触を否定しました。その後、中国に出国した事実が確認され、国際的な対応が求められました。

5月27日、平沢聖母病院で感染した患者がソウル市内のサムスンソウル病院に入院したことで、同病院でも院内感染が発生しました。この患者は、平沢聖母病院で最初の感染者と同じ病棟に入院しており、症状が出た後にソウルに移動し、サムスンソウル病院に搬送されていました。

6月2日には、韓国国内で死者2人を含む25人の感染が確認され、3次感染者も出現。6月11日には死者数が10人を超え、感染者は100人を突破し、4次感染者も確認されました。6月14日には、釜山で初の死者が発生しました。

韓国では、病院での看護を家族や友人が行う習慣や、治療効果がないと判断した場合に次々と病院を変える「医療ショッピング」が、感染拡大を助長した要因として指摘されています。

終息の延期

10月12日、MERS患者の中で最後に陰性判定を受けていた男性が、再び発熱し陽性反応を示したため再入院しました。専門家は、体内に残っていたウイルスの死骸を検出した可能性を指摘し、再発や再感染ではないとの見解を示しましたが、この事態によりWHOによる終息宣言は延期されました。

11月25日、悪性リンパ腫を患っていた再陽性の男性が死亡し、韓国国内で陽性反応を示す患者がいなくなりました。これにより、12月23日に終息宣言が出される見通しとなりました。

終息宣言

2015年 12月23日、韓国政府は、WHOの基準に基づき、最後の患者の陰性確認から28日間経過したことを確認し、MERSコロナウイルス感染症の終息を宣言しました。

2016年、この一連の経過は医学雑誌Lancetに報告されました。

韓国国外の対応

WHO

WHOは、韓国に専門家を派遣し、共同調査を実施。緊急委員会を開催し、「緊急の注意を喚起する警告」を発しました。

各国・地域の対応

台湾はソウルを感染症警戒地域に指定し、注意を促しました。

日本はソウルと釜山に現地対策本部を設置し、情報提供や注意喚起を実施。専門医を派遣し、感染症に関する講演会も開催しました。また、新千歳空港では感染疑い患者を想定した訓練を実施しました。

アラブ首長国連邦、カタール、クウェート、ロシア、マレーシア、香港、ベトナムも、韓国への渡航自粛を勧告しました。

北朝鮮は、MERSを批判し、開城工業団地での感染者接触者の立ち入りを制限するよう要求しました。

感染者数の推移

韓国の保健当局は、感染者数の把握が困難になり、自主申告に頼ることを決定しました。

2015年韓国におけるMERSの流行