2021年10月スーダンクーデター

2021年10月25日、スーダンにおいて国軍によるクーデターが発生し、暫定政権が崩壊しました。これにより、2019年のクーデター後に進められていた民政復帰へのプロセスは中断を余儀なくされ、スーダンの政治情勢は大きく混乱しました。

クーデターの背景

1989年以降、約30年にわたり続いたオマル・アル＝バシール独裁政権は、2019年4月11日の軍事クーデターによって終焉を迎えました。同年8月21日には、軍部が設立した暫定軍事評議会と民主化勢力である自由・変革同盟によって構成される主権評議会が発足し、共同統治が開始されました。この主権評議会は、軍人6名と文民5名で構成され、3年3ヶ月の共同統治後、2022年に選挙を実施し文民政権への移行を目指していました。議長には軍人のアブドゥルファッターハ・アブドッラフマーン・ブルハーン、首相には経済学者のアブダッラー・ハムドゥークが就任しました。

ハムドゥーク暫定首相は、内戦の終結と周辺国との関係改善に尽力しました。2019年11月には紛争が続くダルフール地方を訪問し、紛争被害者との面会を通じて和平への協力を表明しました。2020年10月3日には、暫定政権と反政府勢力であるスーダン革命戦線との間で和平協定が締結されました。同年12月31日には、国際連合とアフリカ連合によるダルフールでの平和維持活動(PKO)が終了しましたが、その後も一部地域では戦闘が続きました。

また、ハムドゥーク政権は国際社会との関係改善にも取り組みました。2019年12月には訪米し、アメリカ政府高官と会談を行い、アメリカ側から改革努力が評価されました。2020年10月には、スーダン暫定政府が1998年の襲撃事件におけるアメリカ人被害者への賠償金支払いに合意したことを受け、アメリカ政府はスーダンをテロ支援国家指定から解除しました。さらに、同年10月にはスーダンとイスラエルが国交正常化で合意しました。

しかし、2021年11月に予定されていた議長職の文民への移行を前に、ブルハーン議長とハムドゥーク首相の間で主導権争いが激化し、両者の関係は悪化しました。同年9月には、旧バシール政権の関係者らがクーデターを計画しましたが、未遂に終わりました。10月14日には、ブルハーン議長がハムドゥーク首相に内閣総辞職を要求しましたが、ハムドゥークはこれを拒否しました。

クーデターの発生と展開

2021年10月25日、軍部はハムドゥーク首相の自宅を包囲し、夫妻を軟禁しました。そして、クーデター支持の声明発表を要求しましたが、ハムドゥークはこれを拒否し、拘束されました。首相報道担当顧問や閣僚の多く、親政府政党の幹部、主権評議会の文民メンバーも拘束されました。

ブルハーン議長は国営テレビを通じて、一連の軍事行動は政治的内紛が原因であり、革命の進路を修正するために政権奪取が必要だったと主張しました。そして、ハムドゥーク暫定政権の打倒、主権評議会の解散、憲法の一部条項の停止、州知事の解任、全土への非常事態宣言を発令しました。また、2023年7月に選挙を実施し、民選政権への移行に責任を持つと発表しました。

国際社会からの解放要求が高まる中、ブルハーン議長はハムドゥークを安全上の理由から監視下に置いていると説明し、数日中に解放する意向を示しました。翌26日、ハムドゥークは解放され帰宅し、アメリカ国務長官と電話会談を行いました。

クーデターへの抵抗運動

情報省は軍部によるクーデターを非難し、国民に民主主義への移行を阻む試みに抵抗するよう呼びかけました。首都ハルツームやオムドゥルマンでは、クーデターに反対する若者らがデモを実施し、道路を封鎖しました。これに対し、軍が実弾を発砲し、多数の死傷者が出ました。また、ハルツームでは軍が家々を回り、抗議者を拘束しました。

ハルツーム国際空港は閉鎖され、国際線の運航は停止されました。インターネットや電話回線も遮断されました。中央銀行職員らはストライキに突入し、各地の医師たちは軍運営病院での勤務を拒否しました。その後もクーデターに反対する声は高まり、各省庁や大学、鉄道会社などでストライキが決行されました。

クーデター後の動き

2021年11月11日、ブルハーン議長は新たな主権評議会を組織し、自らが議長に就任しました。自由・変革同盟は排除されました。11月21日には、ブルハーン議長と各政治勢力との間で合意が成立し、ハムドゥークを首相に復職させ、政治犯を釈放することになりました。しかし、この合意はクーデターを肯定するものとして批判を浴び、閣僚が辞任する事態となりました。2022年1月には、ハムドゥーク自身も首相を辞任しました。

その後も軍政に反対するデモが続き、国際連合やアフリカ連合が調停に乗り出しましたが、文民勢力の多くは軍との交渉を拒否し、文民政権への即時権限移譲を要求しました。2022年6月、ブルハーン議長は国連主導の政治危機対話から軍が離脱することを発表し、文民勢力に暫定政権樹立の協議を促しました。

国際社会の反応

国際連合、アフリカ連合、欧州連合をはじめ、各国がクーデターを非難し、民主的な政権への移行を求めました。アメリカ合衆国はスーダンへの経済支援を凍結する措置を取りました。

もう一度検索