26人のバクー・コミッサール

26人のバクー・コミッサールとは

26人のバクー・コミッサールとは、1918年にバクーで活動していたボリシェヴィキと社会革命党左派の党員たちを指します。彼らはバクー・コミューンという政権の中核を担っていましたが、短期間で崩壊し、その過程で悲劇的な運命をたどりました。

バクー・コミューンの成立と活動

1917年11月15日、バクーでアルメニア人ボリシェヴィキのステパン・シャウミャンの主導によりソビエトが発足しました。これはロシア臨時政府の崩壊からわずか1週間後のことです。シャウミャンは議長に選出されましたが、バクーにおけるボリシェヴィキの勢力はそれほど強くありませんでした。1918年4月13日に誕生したバクー・コミューンは、7月26日に消滅するまでの短命な政権でした。

コミューンは、ムスリムとの流血の争いの後に権力を掌握しました。しかし、その統治期間は食料不足、物資不足、オスマン帝国の脅威など、多くの問題に直面しました。コミューンの主要メンバーには、ボリシェヴィキのシャウミャン、アリョーシャ・ジャパリゼ、ヤーコフ・ゼヴィン、メシャジ・アジズベコフ、ナリマン・ナリマノフ、イヴァン・フィオレトフ、アルタシェス・カリニャン、ナデジュダ・コレスニコヴァ、社会革命党左派のミル・ガサン・ヴェジロフ、I・スハルツェフなどがいました。

コミューンは石油産業と商船の国有化、豪農の土地の小作農への分配、8時間労働制の導入、労働者の賃金増額、成人向け学校や人民大学の開設など、様々な政策を打ち出しました。また、ロシアの他の地域と比べて、敵対者に対する処刑は比較的穏健でした。

しかし一方で、軍事的な手段を用いて産業の国有化を強行し、私有財産の廃止も行いました。特に都市部では、住民が住居を接収され、過密状態や安全性の低い新居への移住を余儀なくされました。また、コミューンの代表にムスリムが含まれていない一方、赤軍の構成員の7割がアルメニア人であったという偏りもありました。

コミューンの崩壊とコミッサールたちの逮捕

1918年6月5日、バクーの赤軍は数で勝るオスマン軍を撃退しましたが、その後エリザヴェトポリへの攻撃で敗北し、バクーへの撤退を余儀なくされました。7月19日には増援が到着しましたが、戦況は好転しませんでした。メンシェヴィキ、社会革命党右派、アルメニア人のダシュナク党は、ペルシャ戦線のイギリス軍指揮官であるライオネル・ダンスターヴィル将軍に都市の防衛を依頼しました。この動きに反対したボリシェヴィキと社会革命党左派は、7月25日の議決で敗れ、翌日にコミューンを辞任しました。

その後、彼らは公金の支出に関する報告書の提出を怠ったとして軍用品横流しの罪で告発され、カスピ海艦隊中央委員会独裁政権によって逮捕されました。

コミッサールたちの処刑

コミューンのメンバーは、ボリシェヴィキ勢力下のアストラハンへの脱出を試みましたが、カスピ小艦隊に妨害され、降伏しました。その後、特殊部隊によって一時解放されましたが、トルクメン号でアストラハンへ向かう途中、燃料補給のために寄港したクラスノヴォツクで、社会革命党の勢力に捕らえられました。

イギリス軍は、コミッサールたちを人質にソ連に勾留されているイギリス市民の解放を交渉しようとしましたが、アシガバード委員会での会議でその意図が伝えられず、26人のコミッサールの処刑が決定しました。1918年9月20日、彼らはカスピ海横断鉄道沿線で処刑されました。

処刑の瞬間については、様々な証言があり、詳細な状況は不明瞭な点が多いです。ジャーナリストのヴァジム・チャイキンは、彼らが「革命万歳！」と叫んだと記述していますが、一方でコミューンメンバーを釈放したミコヤンの証言では、彼らは無言で処刑されたと述べています。

その後の影響

ソ連当局は、この処刑をイギリスの陰謀だと非難しました。ソ連がカスピ海全域を支配下に置くと、処刑の責任者であったフョードル・フンチコフは逮捕され、処刑されました。イギリス政府は事件への関与を否定しましたが、ソ連側の資料では、コミッサールとともにイギリス軍将校が乗船しており、彼らが意図的に航路を変更させたと主張しています。この事件は、英ソ関係を悪化させ、数年間両国の対立が続きました。

ソ連時代には、26人のコミッサールの死は大きく顕彰されました。映画、絵画、切手などの題材となり、セルゲイ・エセーニンやイサーク・ブロツキーなどの著名な芸術家もこの事件をテーマにした作品を発表しました。

記念碑の建設と遺体移送

1920年、26人のコミッサールの遺体が発見され、バクーに丁重に再埋葬されました。その場所は「26人のバクー人民委員広場」と名付けられ、1958年に広場が整備され、1968年には記念碑も建てられました。この記念碑は、ソ連崩壊後に碑文が削り取られ、その後解体されました。

2009年1月、コミッサールの遺体はキリスト教、イスラーム教、ユダヤ教の聖職者らの協力のもと、ホヴサンの墓地に改葬されました。この際、遺体が23体しか確認されなかったことが大きなスキャンダルとなりました。特にシャウミャンの遺体が確認されなかったことは、彼らが逃亡したのではないかという憶測を呼びました。しかし、シャウミャンの孫娘は、アゼルバイジャン共産党の指導層がシャウミャンを敵視していた可能性を示唆しています。

26人のバクー・コミッサールの物語は、革命期の混乱と悲劇を象徴する出来事として、様々な解釈がなされています。

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