3月8日革命

1963年3月8日革命：シリアにおけるバアス党のクーデター

1963年3月8日、シリアで発生したクーデターは、「3月8日革命」「1963年シリアクーデター」「バアス革命」などと呼ばれ、アラブ社会主義復興党（バアス党）のシリア地域指導部による権力掌握を意味する重要な出来事でした。このクーデターは、イラクでのバアス党クーデター成功に刺激されたもので、軍事委員会によって綿密に計画されました。

クーデターの計画

1962年、バアス党シリア地域指導部の軍事委員会は、従来型の軍事クーデターによる政権奪取を計画しました。委員会は、主要な軍事拠点を掌握することを目標に、アル＝キスワとカタナーの軍駐屯地、第70機甲旅団、ホムスの陸軍士官学校、ダマスカスのラジオ局などを制圧対象として選定しました。

当時のシリア政権は崩壊しつつあり、伝統的なエリート層の影響力は低下していました。軍事委員会は、クーデター成功のために、軍内部の支持を得る必要がありました。1961年のアラブ連合共和国崩壊による混乱に乗じ、様々な派閥に分裂した軍将校への働きかけが行われました。委員会は、ナセル主義者派閥と同盟を結び、軍情報部長官やホムス旅団司令官らに秘密裏に接触しました。さらに、無所属派閥の有力者であるハリーリーにも協力を得ました。

一方、バアス党の文民指導部は、この軍事クーデターに当初は懐疑的でした。軍とバアス党の連携は、党の保護という名目で行われましたが、軍事委員会はアフラク率いる文民指導部を完全に信頼していませんでした。しかし、権力掌握には軍事力の支援が必要であり、軍事委員会もまた、権力維持には文民指導部の協力が不可欠であるという認識がありました。1962年5月、バアス党大会でアフラクが民族指導部事務総長に再任され、軍事委員会の計画に同意しました。しかし、クーデター後の権力分与については、具体的な合意は成立しませんでした。

イラクでのバアス党によるクーデター成功（ラマダーン革命）は、シリアのバアス党軍事委員会に大きな影響を与えました。イラクでの成功は、バアス党の勢力拡大を示し、シリアでのクーデター決行を後押ししました。

クーデターの実行

1963年3月7日夜から8日にかけて、クーデター派はダマスカス市内を制圧しました。主要軍事拠点の占拠、通信網の掌握、主要施設の制圧などが迅速かつ効率的に行われました。ダマスカス北東のドゥマイル空軍基地は、唯一抵抗した拠点でしたが、これも制圧されました。クーデターは、比較的無血で完了しました。しかし、政権交代の過程で820名以上の死者が出たと報告されています。

クーデター後の情勢

クーデター成功後、軍事委員会は革命指導国民評議会（NCRC）を設置しました。NCRCは、バアス党員とナセル主義者などから構成され、ビータールが政府を形成しました。しかし、実質的な権力は軍事委員会が握っていました。

NCRCは、アタッシを最高司令官兼議長に任命し、ハリーリーを参謀長に任命しましたが、NCRCは軍事委員会の意向に従う形となりました。軍事委員会は、政策決定をNCRCに先んじて行い、実権を掌握しました。軍事委員会のメンバーは、若年層であったため、市民への影響力に不安を感じ、内務大臣には経験豊富なハーフィズを任命しました。

ナセル主義者によるクーデター未遂

4月、シリア、イラク、エジプトによる3カ国連邦構想が発表されましたが、バアス党優位の軍事委員会は、軍内部のナセル主義者将校を粛清し、事実上、この合意を破棄しました。このことに反発したナセル主義者たちは、7月にクーデターを試みましたが失敗し、多くの犠牲者を出しました。このクーデター未遂により、エジプトとの関係は悪化しました。

1963年3月8日革命は、シリア現代史における転換点となり、バアス党の長期政権の始まりを示す出来事でした。このクーデターは、軍事力と政治的駆け引き、そして国際情勢が複雑に絡み合った結果として発生したものでした。

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