ラマダーン革命

ラマダーン革命：イラクにおける権力闘争と政変

1963年2月8日、イラクにおいて、バアス党を中心とする勢力によるクーデターが発生しました。このクーデターは、ラマダーンの時期に起こったことから「ラマダーン革命」あるいは「2月8日革命」と呼ばれ、イラク近代史における重要な転換点となりました。

革命前夜のイラク：対立と不安定

このクーデターの背景には、1958年の7月14日革命以降、イラク国内に存在していた複雑な政治情勢があります。7月14日革命は、ハーシム王政を打倒し、アブドルカリーム・カーシムを首相とする新政権を樹立しました。しかし、この革命には自由将校団、イラク共産党など様々な勢力が参加しており、それぞれの思惑が交錯していました。

カーシム政権は、当初、汎アラブ主義を掲げる自由将校団のアブドッサラーム・アーリフやバアス党と協力関係を築いていましたが、次第に関係が悪化していきます。一方、イラク共産党はカーシム政権に接近し、農地改革などの政策協力を得て勢力を拡大しました。この共産党の台頭を懸念したカーシムは、共産党への弾圧を強め、両者の対立は深まりました。カーシム政権は、共産党の影響力拡大と、それによる政権転覆の危険性を常に意識せざるを得ませんでした。

また、アーリフは、汎アラブ主義を強く主張し、カーシム政権と対立していました。1959年には反乱計画の容疑で死刑判決を受けましたが、後に恩赦で釈放され、自宅軟禁の状態に置かれていました。シリアにおけるクーデターとアラブ連合共和国の崩壊を受け、アーリフら汎アラブ主義者とカーシム政権との対立は決定的となりました。

クーデターの発動とカーシムの最期

1963年2月8日早朝、バアス党とアーリフらによるクーデターが実行されました。事前に計画されていたクーデターは、情報漏洩により数度の延期を経て、ラマダーンの14日目に実行されました。クーデターは、空軍司令官の暗殺とアブグレイブ・ラジオ局の占拠から始まりました。

その後、バアス党派とカーシム派の間で激しい戦闘が2日間続きました。カーシムは国防省に立て籠もりましたが、最後は降伏を申し出ますが拒否され、処刑されました。処刑の模様はテレビで放映され、国民に衝撃を与えました。クーデターとその後の共産党員狩りによって、数千人のイラク人が犠牲になったとされています。

クーデター後：権力闘争とバアス党の失脚

クーデターの後、アブドッサラーム・アーリフが大統領、アフマド・ハサン・アル＝バクルが首相に就任しました。しかし、バアス党内部やアーリフとバアス党との間で権力闘争が激化し、1963年11月には再びクーデターが発生。バクル首相らバアス党員は政権から追放されました。

ラマダーン革命は、イラクの政治情勢を大きく変え、その後も続く政治的不安定の端緒となりました。この革命は、イラクにおける汎アラブ主義、共産主義、そして軍部の複雑な相互作用を象徴する出来事であり、イラク近代史を理解する上で重要な意味を持っています。様々な勢力の思惑が絡み合い、クーデターの成功とその後における権力争いは、イラクの不安定な政治状況を象徴的に示す出来事となりました。

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