ホムス

ホムス：古代から現代まで続くシリアの要衝都市

ホムスは、シリア・アラブ共和国西部に位置する歴史都市であり、ホムス県の県都です。地中海からやや離れた内陸、標高約450メートルのオロンテス川沿いに広がる都市は、ダマスカスとアレッポというシリアの二大都市の中間に位置し、古くから東西交易路の要衝として重要な役割を果たしてきました。人口は65万人から120万人と推定されており、シリア第三の都市としてその地位を確立しています。

ホムスの戦略的重要性

ホムスの西側には、レバノン山脈が途切れ、ヌサイリーヤ山脈が始まる「ホムス・ギャップ」と呼ばれる重要な峠が存在します。この峠は、古代から地中海沿岸とオロンテス川流域、さらにはメソポタミア方面を結ぶ交易路、軍事路として利用され、ホムスはその東側の入口を扼する戦略的な拠点都市として発展しました。

ホムスの歴史：古代エメサから現代都市へ

ホムスの歴史は古く、紀元前2300年頃には既に集落が存在していた痕跡が発見されています。古代ローマ時代にはエメサとして知られ、太陽神エル・ガバルを祀る大きな神殿を持つ重要な都市でした。ローマ皇帝ヘリオガバルスもこの神殿の司祭出身であることで知られています。エメサは、ヘレニズム文化とアラム語文化が混在する宗教都市であり、セレウコス朝時代には軍事都市アパメアからの圧力を受けながらも、独自の勢力を維持していました。

紀元前64年には、アラム人のサムプシケラムスがポンペイウスの支援を受け、セレウコス朝を滅ぼす役割を担い、その後、エル・ガバル神殿の司祭が都市を治める祭司王による王朝がローマ帝国の支配下で続きます。ローマ皇帝ヘリオガバルスもエメサ出身で、エル・ガバル信仰をローマに持ち込みました。エメサはカラカラ帝の時代に「コロニア」の称号を与えられ、ポエニキア・リバネシアの中心地となりました。

ローマ帝国の東西分裂後、エメサは東ローマ帝国領となり、636年にはイスラム教徒の支配下に入り、ホムスと改名されました。その後、正統カリフやウマイヤ朝、アッバース朝など様々な勢力の支配を受け、12世紀の大地震による破壊や、十字軍、モンゴル帝国による攻撃なども経験しました。1516年にはオスマン帝国に征服され、州都ダマスカスの管轄下に置かれました。

オスマン帝国時代は養蚕業や織物業が盛んでしたが、第一次世界大戦後のフランス委任統治領を経て、シリア独立後は周囲の農業地帯の中心地、交通の中心都市として再び発展しました。1982年のハマー虐殺後、ホムスは経済的に優位に立ちましたが、1973年の第四次中東戦争や、1982年のムスリム同胞団の反乱では戦闘や弾圧を受けました。

2011年以降のシリア内戦では、政府軍と反体制派による激しい市街戦（ホムス包囲戦）が繰り広げられ、旧市街地では多くの市民が犠牲となりました。2014年に一時的な停戦が成立し、住民の避難や援助活動が行われた後、反政府勢力の撤退により、長期間にわたった戦闘は終結しました。しかし、内戦による甚大な被害は、ホムスの街の景観に大きな爪痕を残しています。

ホムスの現在：多様な文化と経済活動

ホムスは、スンニ派、アラウィー派、キリスト教徒など、多様な宗教の人々が共存する都市です。アルメニア人やパレスチナ人難民も多く住んでいます。比較的寛容な雰囲気を持つ都市として知られています。2002年の推定人口は103万3000人でしたが、現在の人口推定は幅があるものの、活気ある都市としての発展を続けています。

経済の中心は、周囲の農村地帯との取引や、重工業を中心とした国営工場です。特に、製油所はホムスの重要な産業となっています。近年は、中小企業の振興や外資誘致にも力を入れており、経済的多様化が進んでいます。

ホムスの観光

ホムス市内には、歴史的なスークやモスク、教会などの観光スポットがあります。また、ホムス博物館や伝統的な住居を使った博物館なども存在し、ホムスの歴史や文化を学ぶことができます。ホムスは、パルミラやクラック・デ・シュヴァリエなどのシリアを代表する史跡へのアクセス拠点でもあります。

ホムスは、その歴史と戦略的重要性、そして多様な文化と経済活動が織りなす魅力的な都市です。内戦による大きな傷を負いながらも、復興と発展を続け、シリアの未来を担う都市として、その存在感を示し続けています。

もう一度検索