4-ニトロフェノール

4-ニトロフェノール

4-ニトロフェノールは、構造中にニトロ基を持つフェノール系の有機化合物です。別名としてp-ニトロフェノールや4-ヒドロキシニトロベンゼンとも呼ばれます。化学式はC6H5NO3で表され、分子量は139.11です。工業化学や研究分野で広く用いられており、CAS登録番号は100-02-7です。日本の法令では、化審法における整理番号3-777、またPRTR法では第一種指定化学物質（整理番号239）に指定されています。

物性

この化合物の物理的性質は以下の通りです。

沸点: 279°C
融点: 113–114°C
20°Cにおける蒸気圧: 9.79 × 10−5mmHg
分配係数 (LogPow, 測定値): 1.91
水溶性:
15°C: 10g/L
20°C: 11.6g/L
25°C: 16g/L

4-ニトロフェノールは結晶多形を示すことが知られており、通常はα形とβ形の混合物として得られます。α形は無色の柱状結晶で、室温では不安定ですが光に対しては安定です。一方、β形は黄色の柱状結晶であり、こちらは室温で安定しています。しかし、光に曝されると徐々に赤色へと変化するという特徴を持っています。

水溶液中における解離定数pKaは、22°Cで7.08の値を示します。非解離の状態ではほとんど無色からわずかに黄色を呈しますが、プロトンを失ってフェノール塩（フェノキシドイオン）となった状態では鮮やかな黄色を呈します。このpHによる顕著な色の変化を利用して、4-ニトロフェノールは酸塩基指示薬として活用されています。

用途と環境中の挙動

環境中における4-ニトロフェノールの挙動については、好気的な条件下での分解性はあまり高くないと考えられています。また、生物濃縮性、つまり生物の体内に蓄積されやすい性質は、無いあるいは低いと推定されています。

日本国内での推定製造量は、平成13年時点のデータで年間およそ100トンでした。主な用途としては、医薬品原料であるフェネチジンやアセトフェネチジンの製造に用いられます。また、殺菌剤の原料としても利用されることがあります。先に述べたように、そのpH指示薬としての性質も重要な用途の一つです。

有機化学合成の分野では、ペプチド合成においてカルボン酸と4-ニトロフェノールから合成される4-ニトロフェノールエステルが、反応性の高い活性エステルとして広く利用されています。これらは、アミド結合を形成する反応などの前駆体として重要な役割を果たします。

毒性

4-ニトロフェノールは、人体に対するいくつかの毒性影響が知られています。主なものは以下の通りです。

刺激性: 目、皮膚、気道を刺激する性質があります。これにより、目や皮膚に赤みや痛みを引き起こしたり、吸入によって咳や喉の痛みを招いたりすることがあります。
血液への影響: 曝露から遅れて、血液に影響を及ぼし、メトヘモグロビンを生成することがあります。これにより、血液の酸素運搬能力が低下するメトヘモグロビン血症を引き起こす可能性があります。メトヘモグロビン血症の症状としては、皮膚や粘膜が青紫色になるチアノーゼ、精神的な錯乱、さらには意識の喪失など、重篤な状態に至る場合があるため注意が必要です。
経口摂取時の症状: 誤って飲み込んだ場合、腹痛や嘔吐といった消化器系の症状が見られることがあります。
アレルギー感作: 長期間にわたる皮膚への繰り返し接触により、アレルギー性の皮膚炎などの感作を引き起こす可能性が指摘されています。
遺伝毒性・発がん性: 現在得られている知見では、遺伝子に損傷を与える性質（遺伝毒性）や、がんを誘発する性質（発がん性）は確認されていません。

急性毒性の指標として、動物実験による半数致死量（LD50）が報告されています。

マウスへの経口投与: 282 mg/kg
* ラットへの経口投与: 202 mg/kg

これらの情報に基づき、取り扱いには十分な注意が必要です。特に、皮膚や目への接触、蒸気や粉じんの吸入、経口摂取を避けるための適切な保護措置を講じることが重要です。

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