45度線分析

45度線分析は、経済学、特にケインズ経済学における基本的なマクロ経済分析手法の一つです。ケインズの交差図とも呼ばれ、一国の経済全体における財・サービスの需要と供給の関係を通じて、国民所得の水準がどのように決定されるかを単純なモデルで示します。この分析は、1930年代から1940年代にかけてケインズが提唱して以来、短期の経済変動や調整プロセスを理解するための重要なツールとして広く用いられてきました。

この分析は、主に財市場に焦点を当てます。より複雑な分析（例えば貨幣市場を加えるIS-LM分析や、労働市場も考慮するAD-AS分析）の出発点となるモデルです。分析を行う際には、まずグラフを用います。縦軸には経済全体の総需要、横軸には国民所得（または総生産量）をとります。そして、原点から45度の角度で右上に向かう直線を引きます。この45度線は、縦軸の総需要の値と横軸の国民所得の値が常に等しい点、すなわち「総需要＝国民所得（総供給）」という関係を満たすすべての点の集合を示しています。

次に、経済全体の総需要を示す総需要曲線を描きます。総需要とは、家計の消費、企業の投資、政府の支出、そして輸出から輸入を差し引いた純輸出の合計です。これらを合計したものが経済全体で購入される財・サービスの総量であり、通常、国民所得が増えるほど総需要も増加すると考えられます。

均衡国民所得は、この総需要曲線と45度線が交わる点で決定されます。この交点では、経済全体の総需要と総供給（国民所得）が一致しており、財市場が均衡している状態を示します。このケインズモデルは、短期の分析であるため、物価や利子率は一定であると仮定されており、企業は需要の変化に対して価格を変えるのではなく、生産量（供給量）を調整することで対応すると考えます。

均衡点以外の点では、経済はどのように調整されるのでしょうか。例えば、総需要が国民所得（生産量）を上回っている場合（45度線より総需要曲線が上にある領域）、企業は在庫が減少するため、生産を増やそうとします。逆に、国民所得（生産量）が総需要を上回っている場合（45度線より総需要曲線が下にある領域）、企業は在庫が増加するため、生産を減らそうとします。このように、短期においては生産量（総供給）が総需要に合わせて調整されるため、経済は最終的に45度線と総需要曲線の交点、すなわち均衡国民所得の水準に向かって動いていくと考えられます。

この調整プロセスの背景にあるのが、ケインズ経済学の中心的な考え方である有効需要の原理です。これは、「経済全体の活動水準（総生産量や国民所得）は、人々の購買力に裏付けられた実際に支出される総需要、すなわち有効需要によって決定される」という考え方です。45度線分析における均衡点での総需要が、まさにこの有効需要に相当します。企業は消費者の需要や投資意欲といった有効需要の水準を予測し、それに合わせて生産計画を立てます。需要が不足すれば生産を絞り、需要が大きければ生産を拡大します。このように、短期においては、総供給は総需要によって規定されるという原理を示しているのが、この分析手法です。

国民所得に関する基本的な原則として、三面等価の原則があります。これは、経済活動を「生産」「分配」「支出」の三つの側面から見ても、その総額である国民所得は常に等しくなるというものです。45度線分析では、横軸の国民所得は生産面または分配面からの総額とみなせます。そして、縦軸の総需要は支出面からの総額です。均衡点では総需要（支出）と国民所得（生産・分配）が一致するという形で、三面等価の原則が成り立つ状態が表現されています。

総需要を構成する要素のうち、特に重要なのが消費です。消費は国民所得に強く影響されると考えられ、その関係を示すのが消費関数です。最も単純なケインズ型の消費関数は、「総消費＝基礎消費＋限界消費性向×所得」という形式で表されます。ここで基礎消費は所得に関わらず存在する最低限の消費であり、限界消費性向は所得が1単位増加したときに消費がどれだけ増加するかを示す割合です。限界消費性向は通常、0より大きく1より小さい値をとると考えられています。

総需要の増減が国民所得に与える影響を考える際に重要な概念が乗数効果です。例えば、企業による投資や政府による公共事業といった支出が増加すると、それは直接的に総需要を増やします。しかし、その増加分は、それを受け取った人々の所得となり、その所得の一部が消費に回ることで、さらに別の人の所得となり、それがまた消費に回るという連鎖反応を引き起こします。結果として、最初の支出増加額よりもはるかに大きな国民所得の増加がもたらされます。この増幅効果を乗数効果と呼び、その大きさは限界消費性向に依存します。限界消費性向が大きいほど、所得の増加分がより多く消費に回るため、乗数効果は大きくなります。投資の増加による所得増加の倍率を投資乗数、政府支出の増加による倍率を政府支出乗数と呼び、単純なモデルでは両者とも「1割る（1マイナス限界消費性向）」という形で表されます。

45度線分析は、シンプルながらもケインズ経済学の根幹をなす有効需要の原理や乗数効果といった重要な概念を直感的に理解するための強力なツールです。短期における財市場の仕組みや、政府支出や投資といった総需要の変動が経済全体に与える影響を考える際の基本的な枠組みを提供します。

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