A20重戦車

A20重戦車：幻の重戦車とチャーチル戦車の系譜

第二次世界大戦下のイギリス軍は、マチルダIIやバレンタインといった既存の歩兵戦車の更新を必要としていました。その要求に応えるべく、ハーランド＆ウルフ社が開発に着手したのがA20重戦車です。本車は、第一次世界大戦のような塹壕戦を想定した設計思想に基づいて開発されました。

ウーリッジの戦車設計監督官が作成した仕様書に基づき、機械化委員会による設計を経て、ハーランド＆ウルフ社は詳細設計と試作車の製造を担当しました。1940年2月までに4台の試作車両（A20E1とA20E2の2種類）が発注され、最初の試作車は同年6月に試験を実施されました。その後、北アイルランドからボクスホール・モーターズ社へと砲塔を取り外した状態で送られ、更にファーンボローの機械戦実験施設へと移送されました。

しかし、フランスでの戦闘は、塹壕戦中心の従来の戦術が通用しないことをイギリス軍に突きつけました。この経験から、新たな戦車への要求仕様が策定され、それがA22へと繋がります。このA22の開発において、A20の設計思想、特にA20に適したと見なされていたベッドフォード製の「ツインシックス」エンジンを採用することが決定されました。

この決定を受けて、ボクスホール社はA20をベースとした新たな戦車の緊急生産を命じられます。これがのちの「歩兵戦車Mk.IV」、そして「チャーチル歩兵戦車」として知られることになる戦車です。1940年11月には、チャーチル戦車の1号機が完成しています。このように、A20は直接的に量産には至らなかったものの、その設計思想や技術がチャーチル戦車の開発に大きな影響を与えたと言えるでしょう。

A20自身の運命はというと、1940年6月、発注されていた100台のA20はキャンセルとなりました。既存の試作車両4台は、軟鋼製の車体を活かして部品の試験に転用されることになります。A20E1は機械戦実験施設からクライストチャーチの架橋実験施設、そして再びファーンボローの車輪付き車両実験施設へと移送され、最終的にはデアハムのクレーンズ社が製造した70トン積載可能な20輪の戦車運搬用トレーラーの試験用貨物として使用されました。このように、試作車両は様々な試験に用いられ、そのデータは後の戦車開発に貢献したと考えられます。

A20は量産には至らなかったものの、その開発過程で得られた技術や経験は、チャーチル戦車という傑作戦車の誕生に繋がる重要な一歩となりました。A20は、幻の重戦車として歴史にその名を刻むと同時に、チャーチル戦車の系譜において重要な役割を果たした存在と言えるでしょう。 開発中止という結果に終わったものの、A20計画は戦車開発における技術革新と、変化する戦況への迅速な対応の重要性を示す、貴重な事例と言えるでしょう。第一次世界大戦の戦訓に基づいた設計思想が、第二次世界大戦の激動の戦場においていかに不適切であったかを示す反面教師ともなっていると言えるでしょう。 また、A20の試作車が様々な試験に用いられたことは、その設計や製造技術の評価が高かったことの証左とも言えます。これらの経験は、後の戦車開発において活かされたことは想像に難くありません。

参考文献
Shillito, Chris, A20, オリジナルの16 March 2013時点におけるアーカイブ。, https://web.archive.org/web/20130316063146/http://freespace.virgin.net/chris.shillito/a22new/articles/a20devtext.htm
Chamberlain, Peter; Ellis, Chris (1969). British and American Tanks of World War II. Arco Publishing
* Fletcher, David (2019). Churchill Infantry Tank. New Vanguard 272. illustrated by Henry Morshead. Osprey. ISBN 9781472837349

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