AMD K5

AMD K5 プロセッサ



AMD K5は、1990年代中盤にAMDが開発したx86互換マイクロプロセッサです。インテルのPentiumプロセッサに対抗する製品として、当時AMDが抱いていた技術的リーダーシップ奪還の野望を象徴する存在でした。K5というコードネームは、スーパーマンの故郷クリプトン星、またはスーパーマンの弱点であるクリプトナイトに由来するとされています。これは、インテルをスーパーマンに見立て、それを打ち破るというAMDの強い対抗意識を表しています。

設計思想とアーキテクチャ



K5は、AMD Am29000開発チームによって設計されました。そのマイクロアーキテクチャは、インテルのPentiumシリーズよりもPentium Pro（P6マイクロアーキテクチャ）に近く、Am29000の流れを汲むRISCコアにx86命令デコーダを組み合わせた構造を採用しています。この設計により、Pentiumプロセッサにはないアウト・オブ・オーダー実行や投機的実行などの先進的な機能を備え、高い並列処理性能を実現しようとしました。

具体的な構成としては、5個の整数演算ユニット（ALU2個、分岐1個、ロードストア2個）と1個の浮動小数点ユニットを持ち、レジスタ・リネーミングやリオーダーバッファなどの機構によってパイプラインストールを減らし、効率的な命令実行を目指しています。命令キャッシュは16KB、データキャッシュは8KBで、どちらも4ウェイ・セットアソシアティブという構造でした。これは、Pentiumプロセッサよりもキャッシュ容量が多く、より高速なデータアクセスを可能にしました。

開発とリリース



K5は1993年に発表されましたが、実際の発売は1996年まで遅れました。これは、開発の難航や製造上の問題が原因でした。その間に、インテルのPentiumプロセッサは進化を続け、より高性能な製品が登場しました。そのため、K5は発表時には最新鋭のアーキテクチャを備えていましたが、市場に投入された頃には競争力を失っていました。

K5には、初期版のSSA/5と後期版の5k86という2つのバージョンが存在します。当初は5k86という製品名でしたが、後に両方ともK5に改名されました。K5は、Pentiumプロセッサとの相対的な性能をPレーティングという指標で表現していました。例えば、K5 P100はPentium 100MHz相当の性能を持つという意味です。

技術的な特徴



  • - アウト・オブ・オーダー実行: 命令の実行順序を最適化し、効率的な処理を実現。
  • - 投機的実行: 分岐予測に基づき、命令を事前に実行することで、パイプラインの停止を減少。
  • - レジスタ・リネーミング: 並列実行性能を向上。
  • - 分岐予測: Pentiumの4倍のサイズの分岐ターゲットバッファを持つが、1Bitカウンターであるため精度はPentiumより劣る。
  • - キャッシュ: 命令キャッシュ16KB、データキャッシュ8KB (4ウェイ・セットアソシアティブ)。

市場での評価



K5は、技術的には先進的なプロセッサでしたが、市場では成功を収めることはできませんでした。主な理由は、開発の遅延により、競合製品よりも性能が低かったこと、量産体制が整っていなかったことなどが挙げられます。しかし、Pentium向けSocket 5/7マザーボードでの動作互換性は高く、ソフトウェアの動作不具合もわずかでした。また、PentiumのFDIVバグ問題が発生した際には、一時的にシェアを確保することができました。

各モデルの詳細



SSA/5


  • - 製品名: 5K86 P75～P100、後に K5 PR75～PR100
  • - プロセス: 430万トランジスタ、0.5um または 0.35um
  • - 一次キャッシュ: 8 + 16 KB (データ + 命令)
  • - 接続: Socket 5 および Socket 7
  • - 電源電圧: VCore 3.52V
  • - 外部バス: 50 (PR75), 60 (PR90), 66 MHz (PR100)
  • - リリース時期: 1996年3月27日
  • - 動作周波数: 75, 90, 100 MHz

5k86


  • - 製品名: K5 PR120～PR166 (200)
  • - プロセス: 430万トランジスタ、350nm
  • - 一次キャッシュ: 8 + 16 KB (データ + 命令)
  • - 接続: Socket 5 および Socket 7
  • - 電源電圧: VCore 3.52V
  • - 外部バス: 60 (PR120/150), 66 MHz
  • - リリース時期: 1996年10月7日
  • - 動作周波数: 90 (PR120), 100 (PR133), 105 (PR150), 116.6 (PR166), 133 MHz (PR200)
  • - 注: PR200は計画されたが、K6の製品化が迫っていたため発売されず

まとめ



AMD K5は、技術的には高いポテンシャルを持つプロセッサでしたが、開発の遅れや市場投入時期のずれにより、その力を十分に発揮することができませんでした。しかし、その先進的な設計思想は、後のAMDプロセッサ開発に大きな影響を与え、AMDがインテルに立ち向かうための基礎を築いたと言えるでしょう。

AMD-K5プロセッサの概要

もう一度検索

【記事の利用について】

タイトルと記事文章は、記事のあるページにリンクを張っていただければ、無料で利用できます。
※画像は、利用できませんのでご注意ください。

【リンクついて】

リンクフリーです。