AMD Am2900

Am2900ファミリ：ビットスライス型プロセッサの先駆け

Am2900ファミリは、1975年にAMDが発表した集積回路（ICチップ）のシリーズです。このファミリは、ビットスライスアーキテクチャを採用しており、プロセッサを構成するためのモジュールとして機能します。各ICは、コンピュータ制御装置（CCU）の異なる側面を担うように設計されており、組み合わせることで多様なシステムを構築することが可能でした。

特徴

ビットスライス方式: Am2900ファミリの最大の特徴は、ビットスライス方式を採用している点です。これにより、データ、アドレス、命令を4ビット単位で自由に拡張でき、柔軟なCCUの設計が可能になりました。例えば、4ビット、8ビット、16ビット、32ビットといった任意のデータ幅のシステムを構築できます。
モジュール性: 各ICは、独立したモジュールとして機能します。これにより、必要な機能を持つICを組み合わせてシステムを構築できるため、特定の用途に最適化されたプロセッサを作成できました。しかし、このモジュール性の代償として、単一のCPUチップで実現できる機能を、より多くのICで実装する必要がありました。
主要なチップ:
Am2901: 演算論理ユニット（ALU）であり、ファミリの中核をなすチップです。4ビット単位で演算処理を行い、バイナリ演算やビットシフトなど、多様な演算機能を備えています。
Am2909: マイクロシーケンサであり、4ビットのアドレスを生成します。複数のAm2909を組み合わせることで、任意のアドレス幅を実現できます。内部には、マイクロプログラムカウンタを最大4レベルまで格納できるスタックとスタックポインタを備えています。
セカンドソース: Am2900ファミリのチップは、モトローラやレイセオンをはじめ、サイプレス・セミコンダクター、ナショナル セミコンダクター、NEC、トムソン（現STマイクロエレクトロニクス）、Signeticsなど、多くのメーカーによってセカンドソース供給が行われました。さらに、ソ連やロシアでも1804シリーズとして製造され、現在も生産されています。

採用事例

Am2900ファミリは、その柔軟性から、様々なシステムに採用されました。ALUのみを使用する例もあれば、システム全体をAm2900ファミリで構築する例もありました。

アーケードゲーム機: アタリのアーケードゲーム機、Tempest、Battlezone、Red Baronでは、数学ボックスの補助回路に4つのAm2901 ICが使用されました。また、I, Robotは、4つのAm2901チップをベースとした演算プロセッサを搭載し、ポリゴン塗りつぶしを行う最初の商用ゲームとなりました。
通信システム: AT&Tの3B20Dは、通信制御用の多重化された高可用性プロセッサとして、4つのAm2901を使用しました。
ワークステーション: アポロ・コンピュータのTernファミリー（DN460, DN660, DSP160）は、MC68010命令セットをエミュレートするためにAm2900ファミリを使用しました。
航空宇宙システム: 木星探査機ガリレオの姿勢制御コンピュータやNASA製航空機で使われたItek Advanced Technology Airborne Computer (ATAC)では、16ビット、16レジスタのコンピュータとしてAm2900ファミリが採用されました。ガリレオ搭載機では、放射線耐性を強化したAm2901を使用し、特別な命令も追加されました。
ミニコンピュータ: データゼネラルのNova 4は、複数のAm2901 ALUを並列に構成して16ビットワードを扱えるようにしました。DECのPDP-10のKS10モデルや、PDP-11の浮動小数点オプションなど、多くのミニコンピュータで使用されました。ソ連のPDP-11クローンであるSM-1420や、VAX 11/730のCPUにもAm2901が採用されています。
オーディオ機器: Eventide H949 Harmonizerは、アドレス生成とDACシステムの基準電圧生成に4つのAm2901チップを使用しました。
その他: フェランティのArgus 700、Geac Computer Corporationの2000, 6000, 8000, 9000、High Level Hardware LimitedのOrion、ヒューレット・パッカード（現キーサイト・テクノロジー）のHP 1000 Aシリーズ、ゼロックスのDandelion、イギリスのGEC 4000シリーズミニコンピュータ、MAI Basic Fourの一部のマシン、Metheus/Barco Omega 400および500シリーズのグラフィックシステム、NCRのUCSD Pascal P-machineプロセッサ、ニクラウス・ヴィルトのLilith、テクトロニクス4052 グラフィックスコンピュータ、ピクサー・イメージ・コンピュータ、Siemens TelepermとS5 PLC、Simulation Excel (Sim-X)など、多岐にわたるシステムでAm2900ファミリが活用されました。

ファミリ構成

Am2900ファミリには、様々な機能を持つICが含まれています。以下はその一部です。

ALU: Am2901
マイクロシーケンサ: Am2909
その他: 74F2960 / Am2960などのように、7400シリーズの名称を持つチップも含まれています。

まとめ

Am2900ファミリは、ビットスライスアーキテクチャという柔軟な設計思想により、1970年代後半から1980年代にかけて、様々なコンピュータシステムの中核として活躍しました。そのモジュール性から、特定の用途に最適化されたプロセッサを構築できるため、幅広い分野で利用されました。このファミリは、今日のプロセッサ設計にも大きな影響を与えたと言えるでしょう。

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