Pentium Pro

Pentium Pro の概要

Pentium Proは、インテルが1995年11月に発売したx86アーキテクチャのマイクロプロセッサ（CPU）です。P6[[マイクロアーキテクチャ]]を採用した最初の製品であり、x86プロセッサとして初めてRISCプロセッサに匹敵する性能を実現しました。主に、ローエンドサーバ、ワークステーション、ハイエンドデスクトップパソコンなど、高度な処理能力を必要とする環境で使用されました。

「Pentium」という名称が付けられていますが、内部構造は従来のPentiumとは大きく異なり、P6[[マイクロアーキテクチャ]]という全く新しい設計を採用しています。P6[[マイクロアーキテクチャ]]は、RISCの設計思想を取り入れ、複雑なx86命令を単純な複数の命令に分割して実行します。また、5つの命令発行ポートを持つスーパースカラ構造、多段パイプラインを効率的に動作させるための分岐予測などの先進技術が導入されています。

これにより、32ビットコードにおいては、同クロックのPentiumを大幅に上回る演算処理速度を実現しました。特に、2次キャッシュメモリへのアクセスを高速化するため、CPUコアと等速度で動作する2次キャッシュメモリをCPUコアと同一のパッケージ上に搭載したことが特徴的です。これにより、メインメモリへのアクセスを外部バス（FSB）で行い、2次キャッシュメモリへのアクセスを内部バス（BSB）で行う、デュアル・インディペンデント・バス（DIB）と呼ばれる方式を採用しました。DIBの導入により、頻繁に発生する2次キャッシュへのアクセスが、低速なFSBに律速されることを回避し、2次キャッシュとメインメモリへの同時アクセスも可能となり、メモリアクセスによるCPUの動作阻害を低減しました。

Socket 8に装着するCPUパッケージは、CPUとは別に2次キャッシュメモリのチップを搭載しており、巨大な長方形の形状をしていました。CPU自体のトランジスタ数は550万個でしたが、2次キャッシュはそれよりも数倍多いトランジスタ数でした。1MB版のPentium Proは、512KBのメモリチップ2枚とCPUコア1枚の3チップ構成でした。

P6[[マイクロアーキテクチャ]]では、Pentium（P54C Pentium）で発生した除算エラーによるリコールの反省から、マイクロコードの一部をソフトウェアで書き換えられるように設計されました。これにより、後発のCPUで発生したエラーは、BIOSやOSを通じて提供される暗号化されたコードブロックをCPUに書き込むことで回避されました。また、整数乗算が4サイクルのパイプライン実行が可能になったほか、多くの命令でPentiumよりも高速化されています。

モデル

Pentium Proのモデルは、CPUコアのクロック周波数と2次キャッシュメモリの容量によって区別されます。

133MHz版: エンジニアリングサンプルとして提供されました。外部バスのクロックは66MHz、2次キャッシュメモリの容量は256KBです。
150MHz、180MHz、200MHz版: 1995年11月に発売されました。150MHzと180MHz版の外部バスのクロックは60MHz、200MHz版は66MHzです。2次キャッシュメモリの容量はすべて256KBです。
166MHz、200MHz版 (512KB 2次キャッシュ): 1996年前半に発売されました。外部バスのクロックはともに66MHzです。
200MHz版 (1MB 2次キャッシュ): 1997年8月に発売されました。外部バスのクロックは66MHzです。256KBと512KB版は紫色のヒートスプレッダに金色の文字が印刷されていましたが、1MB版は黒一色に白で「Pentium Pro」のロゴが印刷されています。これは、1MB版はCPUコアに加え512KBのメモリチップ2枚を収めるため、セラミックではなく樹脂製（FRP）パッケージとなり、上面にアルミのヒートスプレッダを貼り付けた構造になっているためです。また、1MB版は消費電力が大きいため、専用のVRM（電圧レギュレータモジュール）が必要でした。

チップセット

Pentium Pro用に、インテルから以下の3種類のチップセットが提供されました。

450GX（Orion）: サーバ向けのチップセットで、Pentium Proの発売と同時に提供されました。4 CPUまでのSMP（対称型マルチプロセッシング）をサポートし、最大8GBのFPM DRAMに対応しました。
450KX（Mars）: ワークステーション向けのチップセットで、機能的には450GXのサブセットです。2 CPUまでのSMPをサポートし、最大1GBのFPM DRAMに対応しました。450KXは複数のチップで構成されており、同時期のPentium用チップセットよりも複雑で高価でした。
440FX（Natoma）: 450KXの後継チップセットで、1996年5月に提供されました。2 CPUまでのSMPをサポートし、FPM DRAM、EDO DRAM、BEDO DRAMに対応しました。USB 1.0もサポートしており、2つのチップで構成されるため、より低価格でPentium Proシステムを構築することが可能になりました。

性能

200MHz、256KBの2次キャッシュメモリを搭載したPentium Proシステムは、SPECint95で8.09、SPECfp95で6.75を記録しました。これは、当時の最速であった133MHzのPentiumの約2倍の性能でした。整数演算性能は従来のRISCプロセッサに匹敵するレベルに達し、浮動小数点演算性能もRISCプロセッサに近づきました。

ただし、Pentium Proは32ビットコードに特化した設計のため、16ビットコードの実行速度においてはPentiumに劣りました。当時のデスクトップパソコンは、16ビットアプリケーションから32ビットアプリケーションへの移行期であったため、Windows NT上では優れた性能を発揮しましたが、Windows 95ではPentiumとの差があまり出ませんでした。これは、Windows 95の一部が16ビットコードで記述されていたためだと考えられています。この問題は、Intel 486からPentiumへの移行時や、Pentium IIIからPentium 4への移行時にも発生しましたが、Pentium Proの場合は特に顕著であり、Windows NTモデルが主流となり、Windows 95プレインストールモデルはほとんど見られませんでした。

応用製品

Pentium Proは、主にサーバ、ワークステーション向けのCPUとして使用されました。具体的には、以下のような用途の製品に使用されました。

4 CPUまでのローエンドサーバ
ワークステーション
Windows NTをインストールしたハイエンドデスクトップパソコン

Windows 95をインストールしたデスクトップパソコンには、ほとんど使用されず、この用途ではPentium、Pentium MMXが使用されました。

後継CPU

Pentium Proは、CPUコアと2次キャッシュメモリを同一パッケージ上に搭載したことが、製造コストを高止まりさせる要因となりました。この問題を解決するため、後継製品のPentium II、Celeronではパッケージ形状が変更され、Socket 8の代わりにSlot 1を使用しました。

Pentium II: 2次キャッシュメモリをCPUコアと同一基板上に搭載し、動作クロックはCPUコアの1/2でした。パッケージ形状はSECC（Single Edge Connector Cartridge）と呼ばれました。
Celeron (Covington): 2次キャッシュメモリを省略したモデルです。後のCeleron (Mendocino) では、容量を削減した2次キャッシュメモリをCPUコア内に搭載しました。パッケージ形状はSEPP（Single Edge Processor Package）と呼ばれました。

Socket 8に対応するCPUは、Pentium Proとそのオーバードライブプロセッサ以外には発売されませんでした。Pentium IIは、16ビットコードの処理速度をPentium Proより改善し、MMXをサポートしていました。Pentium IIの登場により、デスクトップパソコン向けのPentium Proは置き換えられましたが、Pentium IIは2 CPUまでのSMPしかサポートしなかったため、サーバ向けにはPentium II Xeonが登場するまで、Pentium Proが使用されました。

アップグレード

Pentium Proシステムをアップグレードするための手段は、以下の通りでした。

オーバークロック: Pentium ProはCPUコアのクロック倍率が固定されておらず、マザーボードの設定で調整できました。200MHzのPentium Proを233MHzにオーバークロックすることも容易でした。
Pentium II OverDrive Processor: 1998年8月にインテルから発売された、Pentium Proのアップグレード用プロセッサです。CPUコアのクロックは外部バスの5倍固定（300MHzまたは333MHz）、CPUコアと同速度の512KBの2次キャッシュメモリを搭載し、MMXをサポートしていました。公式には2 CPUまでのSMPサポートでしたが、4 CPUでも動作することがありました。日本では並行輸入品のみが販売されました。
Socket変換アダプタ: 440FXチップセットであれば、Socket 8とSlot 1の両方に対応しているため、Socket 370用のCeleronをSocket 8で使用するためのアダプタが発売されました。また、Pentium ProをSlot 1で使用するアダプタも発売されました。これらのアダプタは、440FX向けに設計されており、450GX/KXや440LX以降のチップセットを使用したシステムでの動作は期待できませんでした。
さらに高度なアダプタ: Socket 8をSocket 370(PPGA)に変換するアダプタと、PPGAやFC-PGAをFC-PGA2に変換するアダプタを組み合わせることで、Celeron Tualatin 1.4GHzやPentium III-S 1.4GHzなどのより新しいCPUを使用することもできました。

これらのアップグレードはBIOSが対応している必要があり、対応していない場合は動作しないことも少なくありませんでした。

脚注

関連項目:
P6[[マイクロアーキテクチャ]]
物理アドレス拡張
外部リンク:
Pentium、Pentium Proの性能比較
Pentium Pro、Pentium MMX、Pentium IIの性能比較

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