P6マイクロ
アーキテクチャは、
インテルが
1995年にPentium Proで導入したx86命令セット
アーキテクチャです。IA-32
アーキテクチャの4世代目にあたるP6は、それまでの設計とは大きく異なり、RISC的なアプローチを取り入れた画期的な設計でした。
P6
アーキテクチャの最大の特徴は、複雑なx86命令をより単純なRISC命令であるμOPs(マイクロオペレーション)に変換する点にあります。この命令変換機構により、スーパースケーラ構造(3系統の命令発行)を実現し、最大5つの命令を同時実行可能にしました。
さらに、投機的実行、アウトオブオーダー実行、レジスタリネーミングといった高度な技術を備え、処理効率の大幅な向上に貢献しました。μOPsを実行する部分はRISCプロセッサとして設計されており、10~14段のスーパーパイプライン構造(従来のPentiumの5段に比べて大幅に増加)を採用。長いパイプラインでも効率的に動作するように、高度な分岐予測機構も搭載されました。また、
Pentium III以降はベクトルプロセッサ機能も追加されました。
P6はCPUと密結合した
キャッシュメモリ、バス幅に合わせた高度なライトバック機能、対称型マルチプロセッサ(SMP)を前提としたバスプロトコル、高周波数駆動可能なGTLバスドライブ方式などを採用し、性能向上に繋がる様々な技術革新が盛り込まれていました。メモリ管理においても、MTRR(メモリタイプ範囲レジスタ)、PSE(ページサイズ拡張)、PAE(アドレスバス拡張)といった機能追加を行い、大規模システムへの対応力を高めました。また、設計ミス(エラッタ)対策として、マイクロコードをソフトウェアで書き換え可能なコントロールストアを搭載し、致命的なエラーの回避を可能にしました。
Pentium Proは、32ビット命令の効率化に重点を置いて開発されましたが、当時の主流は
16ビット命令のWindows 3.1やMS-DOSでした。そのため、
16ビットアプリケーションのパフォーマンスが低く、コンシューマ市場では必ずしも成功したとは言えませんでした。しかし、Windows NTやUNIX系OSを採用したサーバやワークステーション市場では高い評価を獲得し、RISCワークステーション市場への侵食にも貢献しました。
その後、
16ビット命令の実行性能を向上させ、MMX命令セットを追加した
Pentium IIが発売されると、コンシューマ市場でも広く普及するようになりました。P6
アーキテクチャは、
Pentium II、
Pentium III、
Pentium M、
Intel Coreといった数多くのCPUシリーズへと受け継がれ、長年にわたって
インテルの中核
アーキテクチャとして君臨しました。
P6マイクロアーキテクチャをベースとした製品群
P6マイクロ
アーキテクチャを採用した製品は多岐に渡ります。代表的なものとして、Pentium Pro、
Pentium II、
Pentium III、モバイル版
Pentium II/III、
Pentium M、
Intel Coreなどがあります。また、低価格版としてCeleronシリーズ、サーバ向けとしてXeonシリーズも展開されました。
インテルは、これらの製品群を通じて、市場を幅広くカバーする戦略を展開しました。
特にCeleronは、コストパフォーマンスに優れ、オーバークロックにも対応できることから人気を博しました。また、Xeonは、マルチプロセッシング対応や大容量
キャッシュメモリを搭載し、サーバ市場で高い評価を受けました。
インテルは、新世代プロセッサ発売と同時に旧世代プロセッサの大幅な値下げを行うことで、競合他社の成長を阻害する戦略を採っていました。しかし、AMDのK6プロセッサの登場により、この戦略は困難に直面します。AMDは価格に見合う性能を持つ製品としてK6を打ち出し、
インテルは既存のP6
アーキテクチャの性能向上と価格競争力強化を図ることで対抗しました。
まとめ
P6マイクロ
アーキテクチャは、RISC的な設計思想を取り入れ、x86命令セットの性能を飛躍的に向上させた画期的な
アーキテクチャでした。Pentium Proから
Intel Coreに至るまでの多くの製品に採用され、
インテルのx86 CPUの黄金時代を築き上げました。その影響は、現在に至るまでx86
アーキテクチャに大きく残っています。また、
インテルの市場戦略と競合他社との競争の歴史も、P6マイクロ
アーキテクチャの成功に深く関わっています。