AN/SPS-39

AN/SPS-39は、アメリカ合衆国のヒューズ社によって開発された艦載用の3次元レーダーシステムです。先行する実験機AN/SPS-26に基づいて量産化されたモデルであり、アメリカ海軍が艦隊に初めて正式に配備した3次元レーダーとしても知られています。本システムはその後、性能を向上させたAN/SPS-52へと発展を遂げました。

開発の経緯

第二次世界大戦後、航空機の性能向上、特に高速化や高高度飛行への対応が求められる中で、目標の正確な位置（距離、方位、高度）を同時に捉えることができる3次元レーダー技術の開発が重要な課題となりました。当初、アメリカ海軍では多重ビーム方式を採用したAN/SPS-2などの実験的な試みが行われましたが、その複雑さから実用化には至りませんでした。

こうした状況の中、画期的な電子走査方式の一つとして、ヒューズ社のヤルー氏によって「周波数走査（FRESCAN）」方式が考案されました。この方式は、送信する電波の周波数を変化させることで、ビームの位相を制御し、これによりアンテナを物理的に動かすことなく電波ビームの指向方向を電子的に変化させるものです。

FRESCAN方式の有効性を確認するため、垂直方向の走査にFRESCAN、水平方向の走査にはアンテナの機械的な旋回を用いるハイブリッド方式を採用した実験機、AN/SPS-26が試作されました。AN/SPS-26は1953年から地上での試験を経て、1957年8月には揚陸指揮艦「ノーフォーク」に搭載されて洋上試験が実施されました。これらの試験結果を踏まえ、信頼性をさらに高めた実用的なシステムとして開発されたのがAN/SPS-39です。AN/SPS-39は1960年1月より、アメリカ海軍への引き渡しが開始されました。

設計と特徴

AN/SPS-39のアンテナは、前身であるAN/SPS-26と同様に、縦長のシリンドリカル・パラボラアンテナが採用されています。しかし、AN/SPS-26が電子的な手法でアンテナの安定化を図っていたのに対し、AN/SPS-39では測高レーダーで実績のある機械的な安定化機構が導入されました。これにより、艦の動揺によるビームのブレを補正し、安定した探知性能を維持しました。また、目標が動いている場合のみを探知し、固定目標（地上の構造物など）からの不要な反射波（クラッター）を除去するMTI（Moving Target Indication：移動目標表示）技術も後に採用され、探知能力が向上しました。

初期の試験運用（1960年から1962年）において、AN/SPS-39の平均故障間隔（MTBF）はわずか14.2時間という課題がありましたが、その後の継続的な改良により、システムの信頼性は大幅に向上しました。例えば、改良型であるシリーズIIIにおけるMTBFは、搭載艦によって差はありましたが、「サンプソン」搭載機で43.2時間、「ガルベストン」搭載機では67.4時間まで延伸されたと記録されています。

改良と発展型

AN/SPS-39は運用が開始された後も改良が進められました。海軍戦術情報システム（NTDS）とのデータ連携を可能にするインターフェースが追加されたモデルはAN/SPS-42と称されました。さらに、アンテナ設計などを根本的に見直した改良型としてAN/SPS-52が開発されました。

特筆すべきは、1963年から配備が始まったAN/SPS-39シリーズIIIです。このモデルでは、発展型であるAN/SPS-52と同型のプレーナアレイ・アンテナ（平面アンテナ）が採用されました。これにより、外観上ではAN/SPS-39シリーズIIIとAN/SPS-52の区別が非常に難しくなっています。シリーズIIIでは、運用目的に合わせて以下の3種類の動作モードが用意されていました。

高データレート・モード
近距離にある目標を迅速かつ高頻度に探知するためのモードです。アンテナの走査速度は15 rpm、最大探知距離は約60海里（約111 km）、送信パルス幅は2.5マイクロ秒でした。

高角モード
高い高度を飛行する目標を探知することに特化したモードです。走査速度は7.5 rpm、最大探知距離は約160海里（約296 km）、送信パルス幅は4.6マイクロ秒でした。

* 遠距離モード
遠距離の目標を探知することに主眼を置いたモードです。走査速度は7.5 rpm、最大探知距離は約245海里（約454 km）、送信パルス幅は10マイクロ秒でした。

搭載艦

AN/SPS-39は、アメリカ海軍の巡洋艦や駆逐艦など、多くの艦船に搭載されました。しかし、その多くは技術の進歩に伴い、後にAN/SPS-39シリーズIIIや、より高性能なAN/SPS-42、AN/SPS-52といった発展型システムへと順次更新されていきました。

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