AVRE

AVRE: イギリス陸軍の戦闘工兵車

第二次世界大戦中、連合軍によるディエップ上陸作戦の失敗は、工兵部隊の脆弱性を浮き彫りにしました。この作戦で、無防備な工兵部隊が大きな損害を受け、任務遂行に支障をきたしたのです。この経験を踏まえ、カナダ軍工兵部隊は、工兵を敵の攻撃から守る装甲車両の開発を提案しました。こうして生まれたのが、イギリス陸軍王立工兵隊で運用される戦闘工兵車、AVRE (Armoured Vehicle Royal Engineers)です。

AVREの開発

AVREの開発は、チャーチル歩兵戦車、M4シャーマン中戦車、ラム巡航戦車をベースに1942年から開始されました。最終的に、車体サイズが大きく工兵資材を搭載しやすい、そして側面の昇降ドアが工兵の展開に役立つチャーチル戦車がベース車両として採用されました。この昇降ドアは防御力の弱点となるものの、工兵にとっては身を隠したり、機材を展開したりするのに非常に便利だったのです。

当初、砲塔は不要と考えられましたが、290mmペタード臼砲を搭載した砲塔が残されました。この臼砲は、20kgの爆弾を100mまで発射でき、塹壕などの障害物を破壊するのに威力を発揮しました。砲塔内での再装填は不可能でしたが、ドライバーズハッチを改造することで安全に再装填できるよう工夫されました。

1942年10月、チャーチルをベースとした工兵車両の発注が行われ、Assault Vehicle Royal Engineersと命名されました。1943年から本格的な試験が行われ、1944年からチャーチルMk.IIIおよびMk.IVをベースとした量産が開始。第79機甲師団隷下の王立工兵第1突撃旅団に配備され、様々な特殊車両と共に「ホバーツ・ファニーズ」と呼ばれました。名称については、当初は機密保持のため「工兵戦車」と呼ばれ、その後「Assault Vehicle Royal Engineers」を経て、現在では「Armoured Vehicle Royal Engineers」の略称であるAVREが広く使われています。

歴代AVRE車両

AVREは、第二次世界大戦後もイギリス陸軍で継続して運用され、その名称は後継車両にも受け継がれています。主な車両は以下の通りです。

チャーチル AVRE

チャーチルMk.III/Mk.IVをベースとした最初のAVREで、ノルマンディー上陸作戦にも参加しました。ペタード臼砲を搭載し、乗員数は6名に増加。基本型以外にも、粗朶束運搬用や敷設路搭載型など様々なバリエーションが存在しました。

チャーチルMK.VII AVRE

第二次世界大戦後に開発されたモデルで、L9A1 165mm破砕砲を搭載しています。

センチュリオン AVRE

センチュリオンMk.5をベースとしたAVREで、L9A1 165mm破砕砲とドーザーブレードを装備。砲塔バスケットも大型化され、1963年から配備開始。湾岸戦争にも投入されました。105mm砲を搭載し、地雷処理用のマインプラウを装備したFV4203 センチュリオン Mk.12 AVREも存在します。

チーフテン AVRE

センチュリオンAVREの後継として開発されましたが、初期の計画はコスト削減のためキャンセル。その後、装甲回収車型をベースに、ドーザーブレードや塹壕踏破用装備を搭載したFV4203チーフテンAVREが試作されましたが、これもキャンセルされました。

1980年代、センチュリオンAVREの能力不足から、余剰のチーフテン戦車の再利用が検討され、新たなチーフテンAVREが開発。西ドイツで製造された初期型は「ヴィリッヒ・チーフテンAVRE」と呼ばれ、湾岸戦争にも参加しました。改良型であるCHAVREは、10トンウィンチとクレーンを装備し、ドーザーブレードまたはマインプラウを装着可能でした。

トロージャン AVRE

2000年代にチャレンジャー2をベースに開発された最新のAVREで、掘削用アームやプラウを備えています。

ホバーツ・ファニーズ

AVREを含む、第79機甲師団で運用された様々な特殊車両は、同師団司令官パーシー・ホバート少将の名を取って「ホバーツ・ファニーズ」と呼ばれました。これらは、工兵任務の多様化と戦場の状況に対応するために開発された、独創的な車両群でした。

まとめ

AVREは、イギリス陸軍工兵隊の戦闘能力を飛躍的に向上させた戦闘工兵車です。その歴史は、戦場の教訓を反映した技術革新と、絶え間ない近代化の努力を示しています。様々なモデルが登場し、第二次世界大戦から現代の戦闘まで、その存在感を示し続けてきました。将来、新たなAVREが登場する可能性も期待されます。

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