BAe EAP

BAe EAP：未来への翼を担った技術実証機

BAe EAP（Experimental Aircraft Programme）は、1980年代にイギリスのブリティッシュ・エアロスペース（BAe）社によって製造された先進技術実証用の航空機です。わずか1機のみが開発され、当時の最先端技術を結集して次世代戦闘機開発への礎を築きました。

開発の背景と推進体制

1970年代の中頃、イギリスの航空産業界は、ヨーロッパ諸国による、あるいは少なくともイギリス単独での新型戦闘機が必要とされる時期が近づいていると予測していました。1977年に誕生したBAe社は、この将来的な要求を見据え、新しい戦闘機設計の初期検討を開始しました。この計画機は、アメリカのF-16戦闘機と同等以上の性能・能力を目指すものでした。

当初、イギリス政府はこの開発計画への資金的な支援を行わない方針でした。しかし、このプロジェクトはイギリス航空産業の将来的な競争力にとって非常に重要であると判断したBAe社は、独自に開発を進めることを決断します。フェランティやGECアビオニクス、ロールス・ロイスといった国内の主要航空関連企業と協力体制を構築し、さらにイタリアのアエリタリア社や西ドイツのMBB社からの技術的な支援も受けながら、開発作業を推進しました。

EAP計画への発展

1982年には、この独自開発の成果として、「アジャイル戦闘機（Agile Combat Aircraft, ACA）」と名付けられた実物大の模型が、ファーンボロー国際航空ショーで一般に公開されました。この頃、フランス、イタリア、スペイン、イギリス、西ドイツの各空軍当局は、将来の共同戦闘機開発に向けた協議を進めていました。

こうした動きを受け、イギリス政府はACA構想をさらに発展させたEAP（Experimental Aircraft Programme）計画に対し、資金を拠出することを発表しました。1983年には、イギリス国防省とBAe社との間で正式な契約が締結され、EAP試作機の詳細設計、製造、そしてその後の飛行試験が実施されることとなりました。

革新的な技術の数々

完成したEAP試作機は、当時の最新鋭技術を多数搭載していました。主翼はダブルデルタ形状を採用し、機首近くには全遊動式のカナード翼を備えたクロースカップルドデルタ翼という構成でした。機体構造には、軽量かつ高強度な炭素繊維複合材などの先進複合材料が広く用いられました。操縦システムには信頼性の高い四重のデジタル式フライ・バイ・ワイヤを採用し、エンジンも完全にデジタル制御される先進的なシステムを備えていました。操縦席には、パイロットが必要な情報を集約して表示する先進的なグラスコックピットが導入されました。武装は搭載されていませんでしたが、胴体下面には将来的な装備を想定し、ダミーの空対空ミサイルを半埋め込み式に搭載できるステーションが設けられていました。

飛行試験とその後の足跡

EAPの初飛行は1986年8月8日に行われました。この最初の飛行で、機体は高度9,145メートルにおいてマッハ1.1の超音速飛行を達成しました。その後、EAPは合計259ソーティ、延べ195時間に及ぶ綿密な飛行試験を実施し、先進的な機体構造や飛行制御システムに関する極めて貴重なデータを収集しました。これらのデータは、その後の戦闘機開発にとって不可欠な情報源となりました。

EAPは1991年にその役目を終え退役しました。その後はラフバラー大学に移され、航空宇宙工学の教育・研究用の教材として活用されました。2012年からは、イギリス空軍の歴史を伝えるコスフォードのイギリス空軍博物館に展示されており、一般の人々がその姿を見ることができるようになっています。

欧州共同開発への貢献

EAP計画で得られた知見や技術は、後にヨーロッパ諸国が共同で進めた次世代戦闘機開発計画に大きく寄与しました。この共同計画は、当初フランスも参加していましたが、後に離脱。残った国々によって1986年にEFA（European Fighter Aircraft）計画として正式に立ち上げられ、最終的に現在の高性能多用途戦闘機であるユーロファイター タイフーンとして結実することとなりました。EAPは、まさにユーロファイター開発の重要な技術的基盤を築いた機体と言えます。

主要諸元

乗員：1名
全幅：11.77m
全長：14.7m
全高：5.52m
主翼面積：52.02m²
空虚重量：約10,002kg
最大離陸重量：14,515kg
エンジン：ターボ・ユニオン RB199-34R Mk104D ターボファンエンジン × 2基
* 最大速度：約2,124km/h または マッハ2.0 （高高度時）

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