ターボ・ユニオン RB199

ターボ・ユニオン RB199：トーネードを支えた多用途エンジン

ターボ・ユニオン RB199は、ヨーロッパで国際共同開発された戦闘機、トーネードのために開発された低バイパス比ターボファンエンジンです。トーネード IDS（攻撃機型）だけでなく、トーネード ECR（電子戦機型）やトーネード ADV（要撃機型）にも採用され、その多用途性が証明されました。

開発の経緯

RB199の開発は、1967年にイギリスのブリストル・シドレー社が着手したM45Gターボファンエンジンの発展研究に端を発します。M45Gは、イギリスとフランスが共同で進めていた可変翼機開発計画（AFVG）への提案を見据えたものでした。AFVG計画は頓挫したものの、西ドイツなどがF-104の後継となる多用途戦闘機（MRCA）の共同開発計画を進めており、イギリスもこれに合流することとなりました。

MRCA計画において、イギリスのブリティッシュ・エアクラフト・コーポレーション（BAC）が提案した機体設計に採用されたのがRB199でした。一方、西ドイツのメッサーシュミット・ベルコウ・ブロームはプラット・アンド・ホイットニー TF30を搭載する設計を提案。1969年1月には、両案ともMRCAの要求性能を満たすことが確認されました。その他、プラット・アンド・ホイットニーのJTF22、JTF16、GE・アビエーションのGE1/10も候補に挙がっていました。

ロールス・ロイス社ブリストル・エンジン部門の設計に基づいたRB199は、まだ実機が存在しない段階であった1969年9月4日に正式採用が決定しました。ヨーロッパにおけるエンジン生産計画としては最大規模となることが見込まれたため、製造を担当するターボ・ユニオン社が、関係各社の合弁事業として同年6月1日にイギリスで設立されました。

1971年9月27日には、ブリストルで最初のエンジン試運転が行われました。MRCA計画では機体とエンジンの開発が並行して進められたため、機体の初飛行に先駆けてエンジンの飛行試験を実施する必要がありました。そこで、アブロバルカンを改造したテストベッド機が製作され、1973年4月から試験が開始されました。このテストベッド機は、胴体下にMRCAの胴体と右舷側エアインテークを設置した独特な外観をしていました。1974年7月には、MRCAの試作1号機が初飛行し、1976年3月には量産が承認され、「トーネード」という名称が与えられました。

設計の特徴

RB199は、ロールス・ロイスペガサスをベースとしていますが、圧縮機は多軸式であり、ペガサスの2軸式に対し、RB199は3軸式となっています。これにより、エンジンの長さを抑えつつ、高い性能を実現しています。3軸式ターボファンエンジンは、ロッキード L-1011 トライスター向けのロールス・ロイス RB211で実用化され、低燃費・低騒音などの特性から民間機で高く評価されました。しかし、軍用機ではこれらの特性よりも整備性や信頼性が重視されるため、RB199の開発には苦労もありました。

3段の低圧圧縮機は2段のタービン、3段の中圧圧縮機と6段の高圧圧縮機はそれぞれ1段のタービンで駆動されます。燃焼器はアニュラ型を採用。軸速度は最大ドライ推力時で、低圧が12,000 rpm、中圧が16,000 rpm、高圧が18,000 rpmとなっています。

RB199は低バイパス比エンジンであり、ファンによる空気流量はコアを通る流量とほぼ同じ程度（バイパス比約1：1）です。高いタービン温度と高圧縮比（23：1）の組み合わせにより、アフターバーナーを使用しない状態での燃料消費を抑えています。アフターバーナー使用時には、ノズル直径が自動的に調整され、常に最適な効率が得られるようになっています。また、短い滑走路での運用を考慮し、ノズル部分の外側には逆噴射装置が装備されており、1秒以内に展開可能です。

性能諸元 (Mk.101)

最大直径: 860 mm
全長: 3,200 mm
ドライ重量: 899 kg
総流量: 69.9 kg/秒
バイパス比: 1:1
全体圧縮比: 23:1
一段当たりの平均圧縮度: 1.30:1
最大ドライ推力: 36 kN
最大リヒート推力: 71 kN
推力重量比（ドライ）: 4.03
推力重量比（リヒート）: 8.06
熱比率（ドライ）: 51.9
熱比率（リヒート）: 103.8

派生型

RB199-34R Mk.101: トーネード IDS初期型用（推力：38.7 kN（ドライ）/ 66.01 kN（リヒート使用時））
RB199-34R Mk.103: トーネード IDS用パワーアップ型（推力：38.7 kN（ドライ）/ 71.2 kN（リヒート使用時））
RB199-34R Mk.104: トーネード F3用（推力：40.5 kN（ドライ）/ 73.5 kN（リヒート使用時））
* RB199-34R Mk.105: トーネード ECR用、後にIDSの多くも換装（推力：42.5 kN（ドライ）/ 74.3 kN（リヒート使用時））

運用実績

湾岸戦争やイラク戦争におけるトーネードの活躍に象徴されるように、イギリス空軍、ドイツ空軍、ドイツ海軍、サウジアラビア空軍、イタリア空軍において、RB199は総計700万飛行時間以上の運用実績を誇ります。

RB199-34R Mk.104の派生型であるMk.104Eは、ユーロファイタータイフーンの試作機に、本来のエンジンであるEJ200が利用可能になるまでの間、一時的に搭載されていました。

また、日本のFS-X（次期支援戦闘機）の初期検討段階において、搭載エンジン候補としてPW1120、F404/F2J1と共にRB199も検討されていました。

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