BBC Micro

BBC Micro：教育と革新を牽引した英国発のマイクロコンピュータ

BBC Microは、1980年代の英国で一世を風靡したマイクロコンピュータです。英国放送協会（BBC）のコンピュータ・リテラシー・プロジェクトという野心的な教育プログラムのために、エイコーン・コンピュータ社によって開発・製造されました。堅牢な設計、高い拡張性、そして質の高いオペレーティングシステムが特徴で、当時の教育現場に大きな変革をもたらしました。

プロジェクトの背景：コンピュータ革命への期待

1980年代初頭、BBCは社会に大きな影響を与えるコンピュータ革命に着目し、国民のコンピュータ・リテラシー向上を目指す「BBC Computer Literacy Project」を立ち上げました。きっかけとなったのは、イギリスで大きな反響を呼んだドキュメンタリー番組『The Mighty Micro』です。同番組で、イギリス国立物理学研究所のクリストファー・エヴァンスは、コンピュータ革命が経済、産業、ライフスタイルに革命的な変化をもたらすと予測しました。

プロジェクトの一環として、BBCはプログラミング、コンピュータグラフィックス、音楽制作、そして外部ハードウェア制御など、様々なタスクをこなせるマイクロコンピュータの開発に着手。高い技術水準を求める厳格な仕様を提示し、イギリス国内の複数のコンピュータメーカーに開発を依頼しました。その中で、エイコーン・コンピュータ社の提案が採用されたのです。

エイコーン社は、既存のAcorn Atomの後継機として開発中のProtonをベースにBBCの要求に応えました。Protonは改良されたグラフィック機能と高速なCPUを搭載しており、BBCの厳しい要件を満たす唯一のマシンではありませんでしたが、総合的な性能で他社を凌駕していました。

市場へのインパクト：教育市場での成功とARMアーキテクチャへの貢献

1981年末にBBC Microcomputerとして発売されたBBC Micro（愛称：Beeb）は、特に教育市場において大きな成功を収めました。堅牢な筐体とキーボードは、児童の乱暴な扱いにも耐えることができ、教育機関での採用を後押ししました。高価格帯にもかかわらず、一般家庭でも人気を獲得し、イギリスにおけるホビーパソコン市場にも貢献しました。

BBC Microの成功は、教育用コンピュータとしての認知度が大きく影響しました。イギリスの多くの学校でコンピュータ・リテラシーと情報技術スキルの教育に使用されただけでなく、インドなどの英連邦諸国でも同様のプログラムが展開されました。

BBC Microの開発過程では、ARMアーキテクチャが誕生しました。これは後継機の開発において重要な役割を果たし、現在では組み込みシステムで広く利用されている重要な技術となっています。

ハードウェア：拡張性の高さと多様な周辺機器

BBC Microシリーズには複数のモデルが存在しますが、中でもModel AとModel Bはよく知られています。Model Aは16KB、Model Bは32KBのRAMを搭載。他の6502ベースのマシンと異なり、RAMはCPUの2倍のクロック速度で動作し、平坦なメモリアドレス空間を実現しました。これにより、CPUの速度低下を招くことなく、効率的なメモリ管理が可能となりました。

豊富な入出力インタフェースも特徴です。シリアルポート、パラレルポート、アナログ入力ポート、そして拡張コネクタを備え、様々な周辺機器との接続が容易でした。エイコーン独自のLANであるEconetや、第2プロセッサを追加できるTubeインタフェースなども提供されました。Tubeインタフェースは後にARM CPUの搭載に利用され、BBC Micro上でARM開発キットが提供されるなど、その拡張性の高さを示しています。

Model B+64とB+128ではRAMがさらに拡張され、フロッピーディスクドライブが標準搭載されました。しかし、フロッピーディスクコントローラの変更によって、一部のModel B用ソフトウェアとの互換性が失われたという問題もありました。

ソフトウェアと拡張性：洗練されたBBC BASICと活発な開発コミュニティ

BBC Microは、多くのゲームソフトや周辺機器、そしてハードウェア拡張が開発されました。中でも、ROMに搭載されたBBC BASIC インタプリタは、当時としては非常に洗練されており、教育用途に最適化された様々な機能を備えていました。名前付きプロシージャのサポート、IF…THEN…ELSE構文、高解像度グラフィックス、そして4チャンネルサウンド出力などを備え、アセンブリ言語を使わずとも高度なプログラミングが可能でした。

Acorn MOSと呼ばれる組み込みOSは、標準周辺機器やROM上のソフトウェアとのインタフェースとなる広範なAPIを提供。ハードウェアへの直接アクセスを制限することで、ソフトウェアの機種間互換性を高めました。学校ではEconetによるネットワーク接続が広く普及し、多人数参加型ゲームなどが開発されました。

後継機とレガシー：現代への影響

1986年には、拡張機能を強化したBBC Masterシリーズが登場。さらに、エイコーン社は独自の32ビットRISC CPUであるARMプロセッサを開発し、Acorn Archimedesシリーズへと進化を遂げました。BBC Microは、その拡張性と堅牢性から、現在でも一部で利用されています。博物館での展示や、天文台での機器制御など、様々な場面で活躍を続けているのです。

BBC Microは、単なるマイクロコンピュータとしてだけでなく、教育への貢献、ARMアーキテクチャの誕生、そして活発な開発コミュニティの育成など、コンピュータ史に大きな足跡を残しました。その影響は、現代のコンピューティング技術にも色濃く残っています。

もう一度検索