Acorn Archimedes
Acorn Archimedes (エイコーン アーキメデス) の概要
Acorn Archimedesは、エイコーン・コンピュータが自社開発の32ビットARM RISC CPUを搭載した最初の汎用ホビーパソコンです。1980年代後半から1990年代初頭にかけて、その高い性能で注目を集めました。初期モデルから様々な改良が加えられ、教育市場を中心に広く普及しましたが、その後、市場の変化とともに衰退しました。本稿では、その詳細な歴史と技術的特徴、そして市場での影響について解説します。
歴史と初期モデル
1987年6月、Acorn Archimedesの最初のモデルである300シリーズと400シリーズが発表されました。400シリーズには4つの拡張スロットが搭載され、内蔵ハードディスクドライブ用のST-506コントローラが備わっていました。一方、300シリーズは当初2つの拡張スロットでしたが、サードパーティ製で4スロットに拡張可能でした。どちらのシリーズにも、ArthurというOS（後にRISC OSと改名）、BBC BASIC、そしてエイコーンの前身であるBBC Microのエミュレータが標準搭載されていました。また、8チャンネルステレオサウンド機能や256色表示可能なグラフィック機能も備えていました。
初期モデルには、A305、A310、A410、A440の4つの機種があり、それぞれメモリ容量が異なっていました。その後、マイナーチェンジや改良が加えられた多くの機種がリリースされました。
A3000とA5000の登場
Arthur OSの後継として開発されたOSは、当初「Arthur 2」と呼ばれていましたが、同名の映画が公開されたため、RISC OS 2と改名されました。このOSに対応するために、いくつかの新機種が投入されました。1989年には300シリーズが販売終了となり、代わりにAcorn A3000が登場しました。A3000は8MHzのARM2プロセッサを搭載し、1MBのRAMを内蔵していました。従来の機種と異なり、A3000はキーボードが本体と一体化したデザインで、Amiga 500やAtari STと似た形状をしていました。
1991年には、A5000が発表されました。25MHzのARM3プロセッサを搭載し、2MBから4MBのRAM、そして40MBまたは80MBのハードディスクドライブを内蔵していました。キーボードは本体と分離しており、グラフィックス機能も拡張され、最大800x600の表示が可能になりました。また、Archimedesとしては初めて高密度のフロッピーディスクドライブを標準装備し、DOSやアタリのディスクにも対応しました。その後、A5000は33MHzのARM3プロセッサ、4MBまたは8MBのRAM、そして80MBまたは120MBのハードディスクドライブを搭載し、RISC OS 3.10が搭載されました。
A5000では、新しいRISC OS 3.0が動作し、従来の機種もROM交換でアップグレード可能でした。ただし、一部の機種ではARM3 CPUが必要となるなどの追加作業が必要でした。また、サードパーティからは、従来の機種のグラフィックス機能をA5000と同等にするアップグレードも提供されました。
新シリーズとノート型
1992年には、新しいARM250マイクロプロセッサを搭載した機種が登場しました。ARM250は、ARM2にメモリコントローラとビデオコントローラを集積したチップで、クロック周波数が向上し、RISC OS 3.10が動作しました。A30x0シリーズは、A3000と同様にキーボードが本体と一体化していましたが、より小型化されました。A4000は、A5000と似た形状をしていました。A3010は、家庭用ゲーム機を指向した機種で、テレビをディスプレイとして使用でき、ジョイスティックポートを備えていました。一方、A3020は、ビジネスや教育用途を想定しており、2.5インチのHDDとネットワークインタフェースソケットを内蔵していました。A4000とA3020は技術的にはほぼ同じでしたが、HDDのサイズが異なり（A4000は3.5インチ）、外観も大きく異なっていました。ARM250ベースの機種はいずれも4MBまで拡張可能で（A3010は2MBでしたが、サードパーティ製で4MBまで拡張可能）、A3000にあった内部拡張スロットを備えていました。
同じく1992年、エイコーンはノート型のA4をリリースしました。A5000と同様にARM3プロセッサを搭載していましたが、クロック周波数はやや抑えられていました。液晶ディスプレイは640x480の解像度で15階調のグレースケール表示が可能でした。外部ディスプレイポートを使用すれば、A5000と同様の表示も可能でした。マウスの代替となるポインティングデバイスは搭載されておらず、カーソルキーでマウスカーソルを操作するか、外付けマウスを接続する必要がありました。
後継機種として、Acorn A7000（1995年）が存在しますが、名前はArchimedesの機種のようですが、実際にはその後継であるRisc PC（1994年）に似ています。ただし、通常のRisc PCとは形状も機能も異なっていました。
影響
1980年代末から1990年代初めにかけて、Archimedesは最も高性能なホビーパソコンの一つでした。当時、AmigaやAtari STで使用されていたMC68000プロセッサよりもはるかに高性能なCPUを搭載していました。ベンチマークテストによると、8MHzのMC68000は1MIPS程度でしたが、8MHzのARM2は4.5から4.8MIPSの性能を発揮しました。
Archimedesは、イギリス、アイルランド、オーストリアなどの教育市場で大きな成功を収めました。特にイギリスでは、BBC Microの後継機として教育機関に広く採用され、スーパーマーケットチェーンのテスコと提携して学校への導入が進められました。しかし、教育分野以外ではニッチ市場にとどまり、全体的にはマイナーなコンピュータでした。ラジオ局、医療機関、鉄道駅の管理、音楽制作などの分野で採用されていました。教育現場でAmigaやAtari STが避けられた理由の一つとして、児童がゲームソフトを持ち込む懸念があったことも挙げられます。
1990年代初めには、イギリスの教育市場もArchimedesからMacintoshやPC/AT互換機|PC_AT互換機へと移行しました。これらの高性能化が進み、Archimedesの市場を侵食していきました。また、テスコもエイコーン以外のコンピュータ業者とも提携するようになり、Archimedesのシェア低下を加速させました。
まとめ
Acorn Archimedesは、その先進的な技術と高い性能で一時代を築きましたが、市場の変化とともにその勢いは衰えていきました。しかし、その革新的な設計思想は、後のコンピュータ技術に大きな影響を与えたことは間違いありません。
参考資料
もう一度検索
【記事の利用について】
タイトルと記事文章は、記事のあるページにリンクを張っていただければ、無料で利用できます。
※画像は、利用できませんのでご注意ください。
【リンクついて】
リンクフリーです。