BGM-75 (ミサイル)

ZBGM-75：幻の大陸間弾道ミサイル

冷戦時代の[アメリカ合衆国]]において、核抑止力の強化は国家存亡に関わる最重要課題でした。その中で、[[大陸間弾道ミサイル]の開発は常に最優先事項であり、より高性能なミサイルの開発競争が激化していました。ZBGM-75はそのような背景の下、1960年代に開発が検討されたものの、最終的には中止されたICBMです。本稿では、ZBGM-75の開発計画とその中止に至った経緯について詳細に解説します。

ミニットマンの後継を目指して

当時、アメリカ空軍は主力ICBMとしてミニットマンIを配備していましたが、その性能向上と世代交代を視野に入れ、より高度なICBMの開発が求められていました。1966年4月、Advanced Intercontinental Ballistic Missile（AICBM）計画として、ZBGM-75の開発計画がスタートしました。この時点ではまだ計画段階であったため、ZBGM-75という類別記号の「Z」は、そのことを示しています。

多弾頭化と高度な機能

ZBGM-75計画の最大の特徴は、ミニットマンIの単弾頭方式とは異なり、10から20個もの弾頭を1つのミサイルに搭載するMIRV（Multiple Independently targetable Reentry Vehicle）方式を採用する予定だったことです。これは、敵の迎撃ミサイルシステムを回避し、より多くの目標を同時に攻撃することを可能にする画期的な技術でした。また、ミサイル本体は、従来のミニットマンよりも強化されたサイロに格納される計画であり、さらに鉄道による移動発射システムも検討されていました。これは、敵からの攻撃を回避し、生存性を高めるための戦略でした。

さらに、ZBGM-75は敵の迎撃を回避するための欺瞞能力（ペネトレーションエイド）の強化も計画されていました。これは、敵のレーダーや迎撃システムを欺き、ミサイルを目標まで到達させるための高度な技術です。これらの計画は、当時としては非常に野心的で、実現すればアメリカ合衆国の核抑止力を飛躍的に向上させるものと期待されていました。

開発中止の決定

しかし、ZBGM-75の開発は1967年に中止されました。その主な理由は、アメリカ合衆国国防長官ロバート・マクナマラによる開発費の計上拒否でした。マクナマラは、財政的な問題と、ミニットマンミサイルの運用のための強化サイロの開発が既に進行中であることを理由に、ZBGM-75への投資を認めませんでした。

ZBGM-75へのメーカーへの提案要求もなされておらず、計画は初期段階で頓挫しました。順調に進んでいたならば、1973年より部隊配備開始の予定だったとされています。この決定により、ZBGM-75は実用化されることなく、歴史の影に消えていきました。

その後のICBM開発

ZBGM-75計画の中止後も、アメリカ合衆国はICBMの開発を継続しました。ミニットマンミサイルは改良が続けられ、1970年には弾頭3基搭載のMIRVであるミニットマンIIIが実用化されました。また、ZBGM-75の後継として、1972年には後のピースキーパーとなるMXミサイルの開発が開始されました。これらのミサイルは、ZBGM-75で構想されていた技術の一部を受け継ぎ、アメリカ合衆国の核抑止力の中核を担うものとなりました。

ZBGM-75は、実現しなかったものの、冷戦時代の高度な軍事技術開発競争を象徴する計画の一つとして、歴史に刻まれています。その開発計画は、後のICBM開発にも大きな影響を与え、現代の核兵器戦略を考える上で、重要な教訓を提供するものです。

もう一度検索