BINAC

BINAC（バイナック）

BINAC（Binary Automatic Computer）は、エッカート・モークリー・コンピュータ・コーポレーション（EMCC）が1949年にノースロップ社向けに設計・製造した最初の電子式コンピュータです。このコンピュータの開発には、ジョン・プレスパー・エッカートとジョン・モークリーが関与しており、彼らはペンシルベニア大学でストレージ方式のEDVACを設計していたものの、知的所有権の問題から大学を離れ、EMCCを設立しました。EMCCはUNIVAC Iの開発を行っていましたが、資金面での困難を抱え、ノースロップ社からの前払いを運営資金とし、初の製品であるBINACの開発を進めることになりました。

BINAC の特徴とアーキテクチャ

BINACは、二進数を扱うコンピュータであり、二つのCPUを備えています。各CPUは独立した512ワードの水銀遅延線メモリを持っており、相互に結果をチェックし合うことで、ハードウェアの障害によるエラーを防ぐ仕組みが整っています。このコンピュータは約700本の真空管を使用し、512ワードのメモリは16チャネルに分かれていて、各チャネルは32ワード×31ビットで構成されています。動作周波数は4.25MHzですが、他の文献では1MHzとも記されています。ワードの取り出しには約10マイクロ秒を要し、計算時間は加算が800マイクロ秒、乗算が1200マイクロ秒で行われました。データの入力は八進数で、8個のキーからなるキーパッドや磁気テープを使用しました。BINACは高速な二進数演算を実現することを目的に設計されましたが、文字や十進数についての考慮はされていませんでした。

受け入れ試験と実用性

1949年3月、BINACで23命令から成るテストプログラムを実行しましたが、完全には動作しませんでした。この間に行ったテストプログラムには、レジスタからのメモリ書き込みやメモリチェック、平方計算などが含まれており、特定のプログラムは正常に動作しました。ノースロップ社は1949年9月にBINACを受け取りましたが、EMCCの施設では正常に動作していたものの、納品後には不具合が生じました。ノースロップ社は、出荷時の梱包が不適切であったために問題が発生したとしており、一方でEMCCは再組み立ての方法に問題があったと主張しました。この問題は、ノースロップ社が自社の技術者を使用せず、新入社員による再組み立てを行ったことが一因とされています。

ユーザーマニュアルの重要性

BINACはエンドユーザー向けに設計されていたため、操作方法を説明するマニュアルが必要不可欠でした。従来のコンピュータでは、専門的な知識を持つ技術者が操作することが一般的でしたが、BINACでは一般のユーザーが利用することを想定して、ユーザーマニュアルが作成されました。このマニュアルの制作には、自動車の整備マニュアルを参考にしたという背景があり、当時の利用者にとって使いやすい形で情報が提供されました。

BINACは、商用コンピュータの歴史において重要な役割を果たしましたが、機能が限られていたために持続的に使用されることはありませんでした。それにも関わらず、第一歩を踏み出した存在として、今なおその名が語り継がれています。

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