Bonanza

Bonanza：コンピュータ将棋史に革命を起こしたフリーウェア

Bonanzaは、コンピュータ将棋ソフトの歴史に大きな足跡を残した、Windows向けフリーウェアです。開発者は、当時カナダに在住していた化学者の保木邦仁氏。驚くべきことに、将棋の知識はほとんどない状態から開発に着手し、2005年6月にバージョン1.0を公開しました。

プロ棋士も認めた驚異の棋力

Bonanzaの登場は、当時既に存在していたコンピュータ将棋ソフトの常識を覆しました。その驚異的な棋力は、プロ棋士である渡辺明氏からも注目され、ブログで度々話題に。「プロが平手で餌食になった」「奨励会有段者クラスが次々と負けている」と、その実力の高さを称賛しました。渡辺氏自身も10秒将棋ではBonanzaに敗れることがあると語っており、その強さを物語っています。

Bonanzaの強さは、将棋倶楽部24でのレーティングにも表れました。2006年には2400以上（アマチュア五段相当）に達し、主要アマチュア棋戦の県代表争いレベルに達していました。さらに、コンピュータらしくない自然な指し手は、他のソフトとは一線を画す特徴として高く評価されました。

低スペック環境での世界制覇

2006年5月に行われた第16回世界コンピュータ将棋選手権では、Bonanza（バージョン2.0）が初出場にして初優勝という快挙を達成しました。参加ソフトの多くが高性能なワークステーションを使用する中、Bonanzaは一般向けのノートパソコン (VAIO SZ-90S) と小型USB扇風機という、驚くほど低スペックな環境での優勝でした。この赤い扇風機はBonanzaのシンボルとなり、後のプロ棋士との対局でも使用されました。フリーウェアソフト、ノートパソコン、初出場での優勝という三重の快挙は、コンピュータ将棋界に大きな衝撃を与えました。

ソースコード公開と進化

2006年11月にはアルゴリズムの詳細が発表され、2009年1月にはバージョン4.0.3の思考ルーチンのソースコードが公開されました。これにより、Bonanzaの技術は多くの開発者によって共有され、様々な派生ソフトが誕生しました。電気通信大学のチームが開発した「文殊」は、複数のBonanzaライブラリを合議制で運用するシステムで、世界コンピュータ将棋選手権で上位入賞を果たしました。その後も、Bonanzaのライブラリを利用したソフトが数多く登場し、世界選手権で上位を独占するほどになりました。保木氏自身も、Bonanzaの改良を重ね、バージョン6.0では世界選手権で2位を獲得。高性能なコンピュータを複数台用いた並列処理や詰将棋専用マシンの導入など、技術的な進化も目覚ましかったです。

しかし、2012年の世界選手権では二次予選で敗退。2013年大会では再び優勝を果たしましたが、2015年大会を最後にBonanzaは出場しなくなりました。

プロ棋士との対局

Bonanzaはプロ棋士との対局でも話題を呼びました。2007年3月には、渡辺明竜王との公開対局が行われ、結果は渡辺竜王の勝利。しかし、Bonanzaは中盤まで優勢に立ち回り、プロ棋士も認める高い実力を見せつけました。渡辺竜王は、Bonanzaの手の精度と、終盤における意外なミスを指摘。開発者の保木氏は、Bonanzaが人間と遜色ない自然な将棋を指せたことを評価しました。この対局はNHKでもドキュメンタリー番組として放送され、大きな注目を集めました。2010年には、複数の将棋ソフトによる合議システム「あから2010」が清水市代女流王将と対戦し、勝利を収めています。

Bonanzaの革新的な思考ルーチン

Bonanzaの成功は、その独自の思考ルーチンにも依っています。従来のソフトが「選択探索」を採用していたのに対し、Bonanzaは「全幅探索」を採用。これは、すべての指し手を評価するというもので、当時としては非常に計算負荷が高く、現実的ではないとされていました。しかし、保木氏は、コンピュータチェスの論文を参考にこの手法を採用しました。

さらに、評価関数のパラメータを自動生成する技術も革新的でした。これは保木氏の本業である化学反応の制御理論を応用したもので、開発者の主観を排除した客観的な評価関数を構築することに成功しました。この手法は「ボナンザ・メソッド」と呼ばれ、多くのコンピュータ将棋ソフト開発者に影響を与えました。

Bonanzaは、当初詰将棋に対応していませんでしたが、改良が加えられていくにつれて、詰将棋ルーチンも搭載されるようになりました。

Bonanzaの遺産

Bonanzaはフリーウェアでありながら、世界的なコンピュータ将棋大会で優勝するなど、その高い性能と革新的な技術で大きな注目を集めました。ソースコードを公開したことで、多くの開発者に影響を与え、コンピュータ将棋の発展に大きく貢献しました。Bonanzaによって開発された技術は、現在でも多くの将棋ソフトに受け継がれています。その影響は、現代のコンピュータ将棋界においても色濃く残っています。また、Bonanzaは「ボナンザ囲い」と呼ばれる独特な囲いを生み出し、プロ棋士の間でも話題となりました。

Bonanzaは、もはやダウンロードできないものの、その功績はコンピュータ将棋の歴史に永遠に刻まれるでしょう。

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