CBGB

CBGB：ニューヨークアンダーグラウンドシーンの伝説

ニューヨーク市マンハッタン、バワリー315番地にかつて存在したクラブ、CBGBは、音楽史において特にパンク・ロックの文脈で語られることの多い伝説的なライブハウスです。1973年にミュージシャンでもあったヒリー・クリスタルによって設立されたこの店は、当初「Country, Blue Grass, and Blues」、そしてより正式には「Country Bluegrass Blues and Other Music For Uplifting Gormandizers」という名前が示す通り、カントリー、ブルーグラス、ブルースといった音楽を中心に据える構想でした。しかし、これらのジャンルの演奏家が少なかったことから、クリスタルはすぐに「Other Music」へと舵を切り、ロックを中心としたブッキングへと転換します。この柔軟性が、後に思わぬ形で結実することになります。

CBGBの最大の特徴、そして多くの才能が集まる磁場となったのは、「演奏する楽曲は全てオリジナルであること」という唯一無二のルールでした。カバー曲の演奏を禁じることで、出演するバンドは自身の独創性を追求せざるを得なくなります。これが、レコード契約を持たない多くの無名のバンドにとって、オリジナルの音楽を自由に表現できる貴重な場となりました。特に、ニューヨークにはオリジナル曲を演奏できるライブハウスが少なかったため、CBGBはそうしたバンドの受け皿となり、活気あふれるシーンを育む土壌となったのです。

1970年代半ば、CBGBは急速にニューヨークのアンダーグラウンド・ミュージック・シーンの中心地となっていきます。ラモーンズ、テレヴィジョン、パティ・スミス、トーキング・ヘッズといった、後にパンクやニュー・ウェイヴの旗手となるバンドが続々と登場しました。テレヴィジョンが1974年に始めた長期レギュラー出演は、ニューヨーク・パンク・シーンの初期における重要な出来事と見なされています。パティ・スミス・グループも1975年にここでデビューを飾り、ブロンディやラモーンズといったバンドも同時期にCBGBのステージに立っています。ミンク・デヴィル、リチャード・ヘル＆ヴォイドイズ、デッド・ボーイズなど、数えきれないほどのバンドがCBGBを活動拠点とし、その名を広めていきました。

1980年代に入ると、CBGBはニューヨークのハードコア・シーンの聖地としても重要な役割を果たします。特に日曜日の昼間に行われた「マティネー」と呼ばれるライブは、ゴリラ・ビスケッツ、クロ・マグス、アグノスティック・フロントといったバンドが出演し、ハードコア・キッズたちの熱狂的な支持を集めました。一時期、ライブ中の暴力行為を理由にハードコアのブッキングを控えた時期もありましたが、90年代以降は再び様々なジャンルのバンドを受け入れるようになり、閉店まで多様な音楽の発信地であり続けました。

クラブの隣には、かつてCBGBレコードストアがあった大きなスペースを利用して、1980年代後半からは「CBズ・313・ギャラリー」が開設されました。こちらは適切な防音設備がなかったため、ドラムセットなどの大音量楽器の使用が制限され、フォーク、ジャズ、実験音楽など、より静かな音楽やシンガーソングライターが多く演奏しました。一方、メインのクラブスペースでは、引き続き激しいポストパンクやメタル、オルタナティヴ・ロックが鳴り響き、それぞれの空間で異なる音楽性を育んでいました。

しかし、栄華を誇ったCBGBにも終わりが訪れます。2005年、家主であるホームレス支援団体BRCとの間で、家賃滞納を巡る法廷闘争が発生しました。この争いは、賃貸契約終了後14ヶ月の営業延長を条件に和解という形で終結しましたが、結果的に閉店は避けられなくなりました。クリスタルは移転を計画し、内装や備品を全て移築してラスベガスに新たなCBGBをオープンさせる構想を持っていました。

そして2006年10月15日、CBGBはその歴史に幕を下ろしました。閉店を惜しむ多くのファンやミュージシャンが集まり、最後の数日間はバッド・ブレインズやディクテーターズ、ブロンディ、パティ・スミスといった縁の深いアーティストたちがステージを飾りました。特に最終日のパティ・スミスのコンサートは伝説となり、フリーやリチャード・ロイドといったゲストも参加。ラモーンズへの追悼を込めた「グロリア」の演奏や、CBGBで共に過ごした今は亡き友人たちの名前を読み上げるパティ・スミスの姿は、多くの人々の記憶に刻まれました。

閉店後、クリスタルは内装や備品を全て解体・保管し、移転計画を進めましたが、翌2007年8月、彼は肺がんによる合併症で死去しました。CBGBに関連する権利は親族に引き継がれ、グッズ販売などの事業は継続されていますが、ラスベガスへの移転計画は実現していません。公式サイトによれば、現在も「移転先確保中」とされています。

CBGBは物理的な場所としては消滅しましたが、そこで生まれた音楽、育まれた文化、そして無数のライブパフォーマンスは、今なお多くの人々に語り継がれ、ロック史における不朽の存在として輝き続けています。

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