CDT1

CDT1（chromatin licensing and DNA replication factor 1）は、細胞の増殖において最も基本的なプロセスの一つであるDNA複製に関わる中心的なタンパク質です。ヒトを含む多くの真核生物で遺伝的に保存されており、DNAが細胞周期を通じて正確に、かつ過不足なく複製されるために不可欠な役割を果たしています。ヒトの場合、このタンパク質はCDT1遺伝子の指令に基づいて合成されます。

複製前複合体（pre-RC）の形成における役割

細胞がDNAを複製する準備は、細胞周期のG1期に「複製前複合体（pre-RC）」を複製起点に組み立てることから始まります。この過程は「ライセンス化」と呼ばれ、CDT1はこのライセンス化において重要な因子として機能します。

pre-RCの組み立ては段階的に進行します。

1. まず、複製起点認識複合体（ORC: ORC1からORC6までのサブユニットからなる）が、DNA上の特定の複製開始部位を認識して結合します。
2. 次に、CDT1はタンパク質CDC6と共同で、ORCが結合した複製起点へと呼び寄せられ、pre-RCの形成に加わります。
3. これらの因子が揃うことで、DNAの二重らせんを解きほぐす働きを持つMCM複合体（MCM2からMCM7までのサブユニットからなる）が、複製起点に効率的にリクルートされます。MCM複合体は、その後のDNA複製開始に直接関わるヘリカーゼとしての機能を発揮します。

このように、CDT1はORCやCDC6と共にMCM複合体を複製起点に招き入れることで、DNA複製開始のための準備を整える「門番」のような役割を担っています。

細胞周期を通じた厳密な活性制御

CDT1の活性は、細胞周期の進行に合わせて非常に厳密に調節されています。この調節は、一度複製されたDNAが同じ細胞周期内で再び複製されてしまうという危険な状態（再ライセンス化）を防ぎ、ゲノムの安定性を保つために極めて重要です。

G1期に複製起点がライセンス化された後、細胞がDNA合成期であるS期へと移行すると、CDT1の機能は抑制されます。

ジェミニンによる阻害: S期およびその後の細胞周期の期間中、CDT1はジェミニンと呼ばれる別のタンパク質に結合され、その機能が直接的に阻害されます。
ユビキチン化と分解: さらに、SCFSKP2というユビキチンリガーゼ複合体によってCDT1にユビキチンタグが付加され、細胞内のプロテアソームと呼ばれる分解装置によって効率的に分解されます。

これらの二重の制御メカニズムにより、S期以降は新たなpre-RCが組み立てられることがなくなり、DNAは各細胞周期で正確に一度だけ複製されることが保証されます。

進化的な保存とオルソログ

CDT1は、進化的に古くから保存されているタンパク質ファミリーに属しており、その機能は様々な生物種で維持されています。酵母のような単細胞生物からヒトのような多細胞生物まで、DNA複製のライセンス化におけるCDT1の重要性は共通しています。異なる生物種におけるCDT1のホモログ（オルソログ）としては、以下のような例が知られています。

分裂酵母（Schizosaccharomyces pombe）: CDT1（CDC10-dependent transcript 1）
キイロショウジョウバエ（Drosophila melanogaster）: 'double parked' (Dup)
アフリカツメガエル（Xenopus laevis）: XCDT1

これらのオルソログも、それぞれの生物種におけるDNA複製の開始制御に不可欠な役割を果たしています。

相互作用と機能異常の影響

CDT1は、上述の制御メカニズムに関連して、SCFSKP2など複数のタンパク質と相互作用することが明らかになっています。また、その機能発揮において、ORCによる複製起点への正確なリクルートが必須です。

CDT1の機能が損なわれると、細胞の正常な増殖に深刻な影響が出ます。

酵母においてCDT1が完全に機能しないヌル変異体では、DNAを複製することができずに細胞分裂（有糸分裂）だけが進行してしまい、結果として細胞は生存できません（致死）。
* ヒト細胞でCDT1が細胞周期を通じて過剰に発現し続けると、S期以降も複製起点へのMCM複合体のリクルートが許容され、同じDNA領域が複数回複製されてしまう「DNA再複製」が引き起こされます。これはゲノムの不安定化を招く危険な状態であり、細胞はChk1経路などの細胞周期チェックポイントを活性化させることで、これ以上の異常な分裂を防ごうとします。その結果、細胞周期の進行が停止し、有糸分裂が阻害されます。

結論

CDT1は、DNA複製の開始点におけるライセンス化を担う中核的な因子であり、その活性が細胞周期を通じてジェミニンやSCFSKP2複合体によって厳密に制御されることで、DNAが各細胞周期で正確に一度だけ複製されることを保証しています。CDT1の適切な機能は、ゲノム情報の正確な継承と細胞の正常な増殖にとって不可欠であり、その異常はゲノム不安定性や疾患に繋がる可能性があります。CDT1の研究は、DNA複製制御のメカニズムを理解し、癌などの疾患におけるゲノム不安定性の原因を解明する上で重要な鍵となっています。

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