D-21 (航空機)

D-21：ロッキードが開発した戦略偵察ドローン

D-21は、ロッキード社が1960年代に開発した戦略偵察用の無人航空機です。当初は社内呼称「Q-12」として知られていました。高速偵察機A-12（後のSR-71ブラックバード）を母機とし、その背面から発射されるという、当時としては革新的な運用構想を持っていました。

開発の背景

1960年に発生したU-2撃墜事件を契機に、有人偵察機の危険性が認識され、無人偵察機の開発が加速しました。A-12を開発したロッキードのスカンクワークスは、A-12の設計思想を流用しつつ、より小型で高性能な無人機を開発することを目指しました。

Q-12（D-21）の設計は1963年10月に完了。エンジンには、ボマークミサイルに搭載されていたラムジェットエンジンを改良して使用しました。機体の主要構造にはチタンが用いられ、A-12で培われた技術が活かされています。

当初、CIAはD-21計画に乗り気ではありませんでしたが、空軍の関心の高さを受け、共同開発に踏み切りました。1963年3月には、ロッキード社との間で本格的な開発契約が締結されました。

M-21からの発射実験

A-12を母機とするM-21は、D-21を機首上げ姿勢で固定するためのパイロンを背面に備えていました。しかし、M-21からのD-21の発射は困難を極めました。垂直尾翼とD-21の翼端との間隔が非常に狭く、分離時の接触事故が懸念されたからです。

1966年7月30日、4回目の発射実験において、分離直後のD-21がM-21の垂直尾翼に激突し、両機は墜落。M-21の搭乗員1名が殉職するという痛ましい事故が発生しました。この事故を受け、M-21からの発射は中止となりました。

B-52からの発射へ

M-21からの発射が困難になったことを受け、D-21はB-52爆撃機から発射されるように改修されました。改修後の機体はD-21Bと命名され、固体ロケットブースターを用いてラムジェットエンジンが作動可能な速度まで加速される方式となりました。

B-52からの発射実験は、1967年から1969年にかけて繰り返し行われましたが、失敗が相次ぎました。しかし、1968年6月にはじめて発射に成功し、D-21Bは所定の高度とコースを飛行、ハッチの回収にも成功しました。

実戦運用と計画の終焉

1969年11月から1971年3月にかけて、D-21Bは中国上空での偵察作戦「シニアボウル」に投入されました。ロプノール核実験場の偵察が主な目的でした。

しかし、4回の作戦飛行はいずれも成功とは言えませんでした。機体が行方不明になったり、ハッチの回収に失敗したり、回収したハッチが破損したりといった問題が続発したからです。

D-21B計画は、写真偵察衛星の登場や米中関係の改善などを背景に、1971年7月に中止されました。短期間の運用期間ではあったものの、D-21は当時の最先端技術を結集した戦略偵察機として、航空史に名を刻んでいます。

現存する機体

D-21およびD-21Bは、アメリカ各地の航空博物館で展示されています。中には、M-21とD-21が結合された状態で展示されている貴重な機体も存在します。

スペック

翼幅：5.8m
全長：13m
離陸重量：5,000kg
最大速度：4,300km/h
飛行高度：29,000m
航続距離：5,550km以上

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