DARPA FALCON計画

DARPA FALCON（Force Application and Launch from CONtinental United States）計画は、アメリカ国防高等研究計画局（DARPA）とアメリカ空軍（USAF）が主導し、Prompt Global Strike構想実現のために進められた極超音速飛行体に関する研究開発プログラムです。

概要

この計画の主目的は、再利用可能な高速打撃用極超音速兵器システム（HWS）を開発することでした。このシステムは後に「極超音速巡航機（HCV）」と改称されました。計画には、HCVを極超音速域まで加速させるための新型発射システムの開発や、小型衛星の打ち上げ能力の検討も含まれていました。構想は2003年に発表され、初期段階は2006年まで継続されました。

FALCON計画の下で特に注目されたプロジェクトの一つに、滑走路からの離陸とマッハ6への加速を目指した無人航空機、HTV-3X Blackswiftがありました。この開発に関する覚書は2007年9月に締結されましたが、必要な資金を確保できなかったため、残念ながら2008年10月に中止されました。

現在のFALCON計画では、極超音速での運用を想定した汎用的な航空プラットフォームであるX-41 Common Aero Vehicle（CAV）に重点が置かれています。これは大陸間弾道ミサイルや巡航ミサイルの弾頭としてだけでなく、将来的な宇宙船や使い捨て/再使用型ロケットの発射プラットフォームとしての機能も視野に入れています。CAVに関連する試作機として、Hypersonic Technology Vehicle-2（HTV-2）が開発され、2010年4月22日と2011年8月11日の計2回の飛行試験が行われましたが、いずれの試験も計画通りには完遂せず、早期に中断される結果となりました。

開発の歴史

FALCON計画の究極的な目標は、アメリカ本土から1～2時間以内に地球上のいかなる場所へも到達可能な航空機システムを開発することにありました。この構想は、1957年に計画されたダイナ・ソアに端を発します。ダイナ・ソアは、滑走路からではなく、スペースシャトルのようにロケットで垂直に打ち上げられた後、地球に滑空して帰還するという構想でした。元々スペースシャトルもアメリカ空軍の作戦の一部として計画されており、軍事用発射施設がヴァンデンバーグ空軍基地に建設されましたが、実際に使用されることはありませんでした。1957年から1963年にかけてのダイナ・ソア計画終了後、宇宙船に関する開発は機密扱いとなりました。1960年代半ばには、CIAがアイシングラス計画と呼ばれる超音速偵察機の開発に着手するなど、高速飛行体の研究は継続されていました。

プログラム構成

2003年に公表されたFALCONプログラム全体は、以下の二つの主要な構成要素から成っています。

1. ペイロードの軌道への投入: 小型衛星などを軌道へ運ぶための能力。
2. 極超音速兵器: 地球上の遠隔地へ迅速に打撃を与える能力。

過去の高速飛行体や宇宙船計画に投入された予算については様々な議論があります。レーガン政権下で戦略防衛構想（SDI）のディレクターを務めたヘンリー F. クーパーは、1970年代から1990年代にかけてスペースシャトル以外の宇宙船計画に40億ドルが費やされたと指摘しつつも、それ以前のダイナ・ソア等や21世紀の計画を含むと莫大な費用がかかっていると述べています。彼は2001年に議会に対し、巨額の費用に対し得られたのは老朽化したシャトルやいくつかの試験機に過ぎないと証言しました。一方で、FALCON計画とその前身プログラム（2008会計年度に1億7000万ドルが割り当てられた）は、必要に応じて高性能なスペースグライダーを開発するための機会をアメリカに与えたという肯定的な見方もあります。

開発担当企業と計画段階

2003年のDARPA FALCON計画の第一段階では、複数の企業が機体開発の契約を獲得しました。契約企業には、AirLaunch LLC、Andrews Space Inc.、Exquadrum Inc.、KT Engineering、ロッキード・マーティン、Microcosm Inc.、オービタル・サイエンシズ、Schafer Corp.、スペースXなどが名を連ねました。続くフェーズ2のHWS契約では、ロッキード・マーティンが技術開発を進め、計画のリスク低減を図る唯一の契約者となりました。フェーズ2以降、DARPAと米空軍は極超音速航空プラットフォームの開発を継続しました。

FALCON計画で開発された主な実験機やプログラムは以下の通りです。

X-41 Common Aero Vehicle (CAV): 大陸間弾道ミサイル、巡航ミサイル、宇宙船、打ち上げ機の汎用プラットフォーム。
Hypersonic Technology Vehicle 1 (HTV-1): 2007年9月に予定されていた試験飛行は中止。
Hypersonic Technology Vehicle 2 (HTV-2): 2010年と2011年に飛行試験を実施したが、いずれも失敗。
HTV-3X Blackswift: 資金不足により中止された無人機計画。
* 小型ロケット (SLV): CAV能力を持つ小型エンジンの開発。

将来的な極超音速巡航機（HCV）は、5,500 kgのペイロードを搭載し、2時間で約16,668 km（9,000海里）を飛行し、マッハ20までの速度に到達することが見込まれていました。

HTV-2飛行試験の詳細

DARPAはHTV-2試作機を2機製造し、飛行試験に供しました。試験機はミノタウロスIVロケットによってヴァンデンバーグ空軍基地から打ち上げられました。DARPAはこれらの試験を通じて、極超音速環境下での機体の熱防御性能と空力制御技術の実証を目指しました。試験はNASA、宇宙ミサイルシステムセンター、ロッキード・マーティン、サンディア国立研究所、空軍研究所（AFRL）など複数の機関の支援のもと実施されました。

最初の飛行試験は2010年4月22日に行われました。HTV-2滑空体は、マッハ20で太平洋上をクェゼリン環礁に向けて約7,700 km（4,800マイル）を飛行する予定でした。打ち上げ自体は成功しましたが、飛行開始から9分後に機体からのテレメトリ（遠隔計測データ）通信が途絶し、計画通りに完遂しませんでした。後にDARPAは、機体のコンピューターが危険な飛行挙動を検知したため、自動操縦システムが安全確保のために機首を上げて海中に落下させたことを発表しました。

2回目の飛行試験は2011年8月11日に実施されました。この無人試験機もブースターからの分離には成功し、滑空段階に入りましたが、再び飛行開始から約9分で通信が途絶しました。当初は予定された安全域に落下したと報告されましたが、30分間のマッハ20滑空飛行は実現できませんでした。複数の専門家は、2度目の試験失敗がFALCON計画の抜本的な見直しにつながったと指摘しています。

HTV-3X Blackswiftの開発は、ロッキード・マーティンのスカンクワークス、ボーイング、アライアント・テックシステムズなどが協力して進めていましたが、2009年度国防予算で必要な資金が確保されなかったため、2008年10月に中止が発表されました。ただし、極超音速巡航機計画自体は、予算を縮小した形で継続されることとなりました。

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