DESQview

DESQview：DOS時代のマルチタスク環境

DESQviewは、Quarterdeck Office Systems社が開発したDOSエクステンダです。1980年代後半から1990年代前半にかけて、MS-DOS環境で複数のプログラムを同時に実行できるマルチタスク環境を提供するソフトウェアとして人気を博しました。テキストベースのインターフェースながら、ウィンドウによるプログラムの並列実行を可能にした点が大きな特徴でした。

DESQviewの起源と進化

DESQviewの前身となる製品として、Quarterdeck社はタスク切り替えソフトウェア「DESQ」をリリースしていました。しかし、同時期に発売されたSoftware Carouselの人気に押され、大きな成功を収めるには至りませんでした。そこで、マルチタスク機能とIBM TopViewとの互換性を強化したDESQviewを開発、1985年7月にリリースしました。これは、マイクロソフトがWindows 1.0をリリースする4ヶ月前のことであり、MS-DOS環境にマルチタスクとウィンドウ機能をもたらした最初の製品の一つとして注目を集めました。

DESQviewは、サイズ変更やオーバーラップ可能なウィンドウ内で複数のDOSプログラムを並行して実行することができました。シンプルなメニューによるプログラム間のクリップボード機能や、簡単なマクロ機能も搭載していました。また、Quarterdeck社は、DESQview用のメモ帳やダイヤラーなどのユーティリティソフトも開発しました。初期バージョンではテキストモードのみでしたが、後期のバージョンではグラフィックモードのプログラムにも対応（フルスクリーンモード）しました。

メモリ管理とQEMM

DESQviewは、リアルモードで動作する擬似GUIシェルでした。そのため、Intel 80386プロセッサ搭載マシンでは、640KBのコンベンショナルメモリ制限を効率的に活用するために、メモリ管理が課題となりました。そこでQuarterdeck社は、メモリ管理プログラムQEMM-386を開発しました。QEMM-386はDESQviewよりも高い人気と売上を記録し、後に単にQEMMと呼ばれるようになりました。DESQviewとQEMM-386を同梱した製品はDESQview 386として販売されました。

QEMMは、XMS、EMS、UMAといったメモリ管理技術を活用し、DESQviewが640KBを超えるメモリ領域にアクセスすることを可能にしました。特に、LIM EMS（Lotus、Intel、Microsoftが共同開発した拡張メモリ仕様）のAPIでは実現できないような高度なメモリ管理を実現することで、複数のプログラムを同時実行する能力を飛躍的に向上させました。8MBのシステムでは約12、16MBのシステムでは20以上のDOSプログラムを同時実行できたとされています。

DESQviewのインターフェースと操作性

DESQviewは、多くのDOS互換プログラムを高い安定性と性能で実行することができました。また、直感的なインターフェースにより、初心者でも容易に操作することができました。Altキーによるメニュー表示、シフトとAltキーの同時押下によるマクロ学習機能などが、その使いやすさを支えていました。

DESQviewの成功と衰退

DESQviewは一定の人気を獲得しましたが、市場を席巻するほどの大ヒットにはなりませんでした。マイクロソフトのWindows 3.0の登場が、DESQviewの衰退に大きな影響を与えました。Windows 3.0は、DESQviewよりも安価でグラフィック機能をサポートしていたため、多くのソフトウェア開発企業やユーザーはWindowsへと移行していきました。マイクロソフトによるWindowsへの積極的な推進と、ISV（Independent Software Vendor）への圧力は、DESQviewの市場における地位を弱めていきました。さらに、デジタルリサーチのDR-DOS 5.0やMS-DOS 5.0へのメモリ管理機能の統合も、QEMMの市場シェアを縮小させる要因となりました。

DESQview/Xとその後

Quarterdeck社は、DESQview上でX Window Systemを実行できるDESQview/Xをリリースしましたが、既にWindowsアプリケーションが多数存在していたことや、当時のPCの性能がUNIX ワークステーションに比べて低かったことなどから、市場での成功には至りませんでした。

1990年代半ばには、インターネット事業への転換を試みるも失敗し、最終的にシマンテックに買収されました。現在、DESQviewはサポートなしでインターネット上からダウンロード可能です。しかし、著作権の状態は明確にはされていません。

まとめ

DESQviewは、Windowsが登場する以前の時代において、MS-DOS環境にマルチタスクとウィンドウ機能を提供した画期的なソフトウェアでした。その技術的な功績は高く評価されるべきですが、Windowsの台頭や市場環境の変化によって、歴史の中に埋もれていったソフトウェアと言えるでしょう。

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