DOWN UPBEAT

Down Upbeat

『Down Upbeat』（ダウン・アップビート）は、日本のインストゥルメンタル・フュージョンバンド、カシオペアによって1984年にリリースされた、彼らにとって通算12作目にあたるオリジナル・レコーディング・アルバムです。当時の先進的なデジタル技術と、バンドメンバーの卓越した演奏能力が融合した、カシオペアのキャリアにおいても重要な位置を占める作品として知られています。

演奏メンバー

本作の演奏は、レコーディング当時のカシオペアのラインナップである以下の4名によって行われました。

野呂一生：エレクトリックギターを担当。この時期、フレットレス加工されたYAMAHA SG-2000を使用するなど、独特のギターサウンドを追求していました。また、収録曲の一部ではデジタルドラムやパーカッションのプログラミングも手掛けています。
向谷実：キーボードを担当。YAMAHA DX-1やDX-7といった当時の最新デジタルシンセサイザーを駆使し、アルバム全体のサウンドに大きな影響を与えています。野呂と同様に、デジタルドラムやパーカッションのプログラミングにも参加しました。
櫻井哲夫：ベースを担当。YAMAHA BB-3000の5弦モデルやBB-2000を使用し、バンドのボトムエンドを支えると共に、メロディックなラインも披露しています。
神保彰：ドラムを担当。YAMAHA YD-9000RGのドラムセットに加え、Simmons SDS-5といったデジタルドラム、Zildjanのシンバルを組み合わせ、パワフルかつテクニカルなドラミングを展開しています。さらに、AMDEK PCK-100といった機材も使用しています。

この時期は、デジタルシンセサイザーやデジタルドラムといった電子楽器が音楽制作において広く利用され始めた黎明期にあたり、カシオペアも積極的にこれらの機材を取り入れ、サウンドの可能性を拡張していました。

制作陣

アルバムの制作には、以下のスタッフが携わっています。

プロデューサー：宮住俊介と、メンバーの野呂一生が共同でプロデュースを担当しました。
レコーディング・エンジニア：リック・ペッコネンが務め、サウンドの設計と録音を手掛けました。
アシスタント・エンジニア：Warren Bruleighがレコーディングをサポートしました。
マスタリング・エンジニア：音源の最終的な仕上げは、著名なバーニー・グランドマンが担当しました。
デジタル・テクニシャン：John ButherfordとDavid Satzがデジタル機器の技術的なサポートを行いました。
デザイナー：Kaoru Watanabe、Hiroyasu Yoshioka、Katsunori Hironakaがアートワークを担当しました。
* 写真家：Yukio Ichikawaがジャケット写真などの撮影を手掛けました。

アルバムにまつわるエピソード

本作には、いくつかの興味深いエピソードが存在します。

収録曲である「Road Rhythm」の一部フレーズは、朝日放送テレビで放送されている人気番組『探偵!ナイトスクープ』において、VTR終了後のBGMとして長年にわたり使用され、多くの視聴者に親しまれました。また、「FROU FROU」は、文化放送のラジオ番組『梶原しげるの本気でDONDON』内の交通情報コーナー「DONDONレーダー」のBGMとして使われており、当時の文化放送の他の時間帯の交通情報とは異なる特徴的なサウンドとして記憶されています。

さらに、初期のCD化における技術的な課題を示す事例として、1984年に初めてCDとして市場に登場した盤（品番38XA-25）の中に、収録曲「ザ・コンチネンタル・ウェイ」のイントロ冒頭に入るべきスネアドラムの音が、マスタリング工程での不具合により欠落したまま流通したものが存在することが知られています。これは、デジタルメディア移行期の製品における、稀なエラーケースとしてファンの間で語り継がれています。

その後の展開

本作は、長年にわたり多くのフュージョンファンに愛聴されており、様々な形態で再発売されています。特に2016年7月27日には、鈴木浩二によるリマスタリングが施されたハイレゾ音源版がリリースされ、より高音質で楽曲を楽しめるようになりました。

『Down Upbeat』は、カシオペアのデジタルサウンドへの積極的な取り組みと、不変の演奏クオリティが発揮された作品であり、日本のフュージョンシーンにおける重要な一枚と言えるでしょう。

もう一度検索