DeCSS

DeCSS（ディーシーエスエス）は、DVD-Videoに用いられているアクセスコントロール技術であるCSS（Content Scramble System）を解除するためのプログラムです。1999年に当時10代だったヨン・レック・ヨハンセン氏によって公開されました。

当時、Linux環境では商用DVDを視聴する手段がありませんでした。ヨハンセン氏は、LinuxでDVDを閲覧したいという動機から、DVDソフトウェアプレイヤーに実装されていたCSS解除アルゴリズムを解析しました。その結果、CSSを解除するDeCSSの開発に成功し、インターネット上に公開しました。

DeCSSの登場によって、DVDの複製が容易になる可能性が生まれました。このため、映画業界の団体であるMPAA（Motion Picture Association of America）などがヨハンセン氏を訴えましたが、最終的に無罪となっています。また、CSSを管理する団体であるDVD CCA（DVD Copy Control Association）も訴えを取り下げました。

アメリカでは、一時的に裁判所命令によってDeCSSのコード公開が禁じられましたが、これは言論の自由に抵触するという判断がなされ、命令は撤回されています。この一連の騒動は、技術と著作権、そして言論の自由に関する議論を巻き起こしました。

現在、DeCSSの技術は、GPL（GNU General Public License）のフリーソフトウェアライブラリ「libdvdcss」として広く利用されています。libdvdcssは、多くのメディアプレーヤーに組み込まれており、Linux、FreeBSD、Solaris、BeOSなど、商用ソフトウェアが少ないOSでのDVD-Video再生に不可欠な存在となっています。また、Windows XP以前のOSは標準でDVD再生機能を搭載していなかったため、libdvdcssを利用したプレーヤーが広く普及しました。

DeCSSは、暗号アルゴリズムが漏洩し、第三者によって利用・拡散された事例として、RC4と類似しています。RC4は、開発元のRSAセキュリティとは無関係に、HTTPSで使用されるSSLや無線LANで使用されるWEPなどに利用されるようになりました。この事実は、一度公開された技術がどのように広範囲に影響を及ぼすかを示唆しています。

しかしながら、日本では、2012年6月20日に著作権法が改正され、DVDなどに用いられるCSSなどの暗号型技術が、著作権法上の「技術的保護手段」に追加されました。これにより、CSS等の保護技術を回避してのDVDのリッピング（複製）は私的複製の対象外となり、違法行為となりました。ただし、CSS等の保護技術が使用されていないDVDのリッピングは、改正後も従来通り合法です。また、CSSを回避するプログラムや装置の提供も規制され、刑罰の対象となります。DeCSSのようなプログラムを公開、配布することには注意が必要です。

DeCSSの開発と普及は、技術の進歩が社会に与える影響、著作権保護と技術的自由のバランス、そして法規制のあり方を考える上で、重要な事例の一つと言えるでしょう。

関連事項:

暗号解読：DeCSSは暗号化されたデータを解読する技術に関わる。
VLCメディアプレーヤー：libdvdcssを組み込み、DVD再生を可能とする代表的なメディアプレーヤー。
DVD Decrypter：DVDのリッピングを行うためのソフトウェア、CSS解除機能を持つ。
DVDFab HD Decrypter：DVDのリッピングソフトウェアの一つ、CSS解除機能を備える。
コピーガード：DVDなどのコンテンツを不正な複製から保護するための技術。
違法素数：DeCSSのコードを素数として表現し、合法的に公開しようとした試み。
* Qrpff：DeCSSのソースコードを短くしたバージョン。

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