EDVACに関する報告書の第一草稿

EDVACの第一草稿: コンピュータ設計の革命

ジョン・フォン・ノイマンが1945年に執筆した「EDVACに関する報告書の第一草稿」は、コンピュータ史における重要な文書です。この草稿は、未完成の状態で全101ページから成り、プログラム内蔵方式という新しいコンセプトを導入しています。これは、コンピュータがプログラムとデータを同じ記憶装置で扱うことを可能にし、このアプローチは後に「ノイマン型アーキテクチャ」として知られるようになります。

歴史的背景

フォン・ノイマンは、ニューメキシコ州ロスアラモスからフィラデルフィアへ電車で通勤中にこの報告書を手書きで作成しました。報告書は、彼の同僚であるハーマン・ゴールドスタインによって、1945年6月30日の日付でタイプされ、複製されました。最初の草稿は数日前の6月25日に、EDVACプロジェクトに関与する関係者に配布されており、その内容は多くの科学者や技術者に興味を引きました。

報告書の概要

この第一草稿では、フォン・ノイマンが「超高速自動デジタルコンピューティングシステム」の設計を提案し、システムを6つの主要な装置に分けて説明しています：

1. 中央演算部 (CA): 算術演算を行う部。
2. 中央制御部 (CC): システムの制御を行う部。
3. 記憶装置 (M): データを格納する記憶装置。
4. 入力装置 (I): データを入力するための装置。
5. 出力装置 (O): 処理結果を出力するための装置。
6. 外部記憶装置 (R): パンチカードや磁気テープなどを用いた低速の記憶装置。

フォン・ノイマンは、加算、減算、乗算、除算、平方根を含む様々な算術操作を実行するための方法も示しました。計算には、二進法が使用され、27桁の二進数で十分であると彼は考えていましたが、符号ビットを含む30ビットを使用して1ワードを表現しました。

回路設計の提案

フォン・ノイマンは、コンピュータの設計においてはリレーよりも真空管を用いるべきであると主張し、真空管の高速性を強調しました。また、彼は算術演算を極力単純化し、重複を避けることによってパフォーマンスを向上させる設計の枠組みを提案しました。演算は一度に1つの二進数に対して行われ、加算には約1マイクロ秒かかると見積もられました。この設計は後のデジタル回路の基礎となりました。

記憶装置の設計

フォン・ノイマンの草稿では、数値と命令を同一の記憶装置で扱うというコンセプトが提唱されました。彼は、必要なメモリの容量を評価し、最終的には8192個のマイナーサイクルを対象とする設計を目指しました。その中で、いくつかの異なるタイプのメモリ装置が必要になると考えました。また、彼は「遅延線」や「アイコノスコープ」といった新しいメモリ方式の提案も行いました。

命令のフォーマット

フォン・ノイマンは命令（コード）のフォーマットについても述べ、基本的な算術演算やメモリ間のデータ移動、入出力の操作を含む様々な命令タイプを提案しました。この報告は、後のプログラミングの基礎となる重要な概念を含んでいます。

論争と影響

第一草稿が公開されたことで、EDVACの設計チーム内に批判的な声が上がりました。特定の派閥からは、草稿が特許取得を妨げるのではないかという懸念が表明されたほか、フォン・ノイマンがその設計理念の正真正銘の発案者であるかどうかが争点となりました。この報告は、技術的な革新がどのように権利の帰属に影響を与え、後のコンピュータ科学の発展に大きな影響を及ぼしたかを示す一例です。

この第一草稿は、歴史的に重要な意義を持ち続けており、コンピュータアーキテクチャにおける基本的な考え方の礎を築いたと言えるでしょう。この文書は、後の計算機科学やプログラミングの発展に多大な影響を与リました。

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