F-16 (航空機)

F-16 ファイティングファルコン

F-16（Fighting Falcon）は、アメリカ合衆国で1970年代に開発された多用途戦闘機です。愛称は「戦うハヤブサ（隼）」を意味するファイティング・ファルコンで、第4.5世代ジェット戦闘機に分類されます。

開発とアメリカ国内での製造はジェネラル・ダイナミクス（現ロッキード・マーティン）が担当しました。単発エンジンのため比較的低価格であり導入・運用しやすく、アメリカ国外でライセンス生産された機体を含めて、2020年代においても世界中で4000機以上が使用されています。

概要

当初は昼間軽量戦闘機として構想されましたが、後に全天候対空/対地攻撃能力が付与されました。正式な初飛行は1974年2月2日。大型化したLERXおよび胴体とLERX及び翼を一体で成形するブレンデッドウィングボディを採用し、フライ・バイ・ワイヤを搭載するなど、当時の革新的技術を積極的に採用しました。初飛行から50年以上経過していますが、段階的に改良されたことにより、新しいロットでは後発の4.5世代機に匹敵する能力を備えています。

アメリカ空軍では高性能だが高価なF-15と相対的には安価な本機での「ハイ・ロー・ミックス」運用が行われており、保有作戦機の過半数を占めています。他の導入国の多くでは主力戦闘機として運用されています。

4600機以上生産され、世界20か国以上の空軍が採用した実績からベストセラー戦闘機と評されています。アメリカ製のジェット軍用機としては、9,860機のF-86、6,557機のT-33、5,195機のF-4に次ぎ、第4位の生産数です。アメリカ空軍向けの生産は終了していますが、海外では新規に採用する国があるため、輸出向けとして改良型の生産が続いており、2012年4月3日にはモロッコ空軍向けのF-16C Block 52アドバンストが4,500機目の納入機として完成しました。

本機をベースとした戦闘機、攻撃機、練習機などの派生型が複数開発されています（後述）。

開発史

F-16開発の契機は、1970年頃、アメリカ空軍で自らが開発に関わったF-X（後のF-15 イーグル）に対して不満を持っていたジョン・ボイドが秘密裏に進めた研究に端を発します。その不満は、主に下記の2点でした。

1. 視程外射程（BVR）での交戦を重視した結果としてアビオニクスが高度化し、機体価格の高騰から取得性が低下している点。
2. 様々な性能要求によりF-Xの機体が当初の見積もりよりも大きくなってしまったことなどエネルギー機動性理論（E-M理論）の適用が不徹底であるため、当時推定されていた仮想敵機に対して性能的に劣る危険がある点。

当時、アメリカ合衆国国防総省や空軍には、ボイドとボイドと共にE-M理論を作り上げた民間人コンピューター技師トーマス・クリスティ以外にも同様の危惧を抱くものが現れており、その一人が、システム分析担当国防次官補室に勤めるピア・スプレイでした。スプレイは、重量15〜16トン級と、現行のF-Xより一回り小さく、かつE-M理論を徹底的に適用した戦闘機として、F-XXと呼ばれる研究に着手しました。F-XXははるかに安上がりなので、質のみらず量においてもソビエト空軍/防空軍の戦闘機部隊を凌駕するという目的で構想されました。まもなく、4人目の同志として、アメリカ合衆国空軍省勤務の戦闘機操縦士兼航空工学技術者であるE・リッチオニ大佐が加わり、これら4名は戦闘機マフィアとして知られる一派のオピニオン・リーダーとなりました。ボイドをはじめとする戦闘機マフィアに対する政治的逆風は極めて強く、例えば戦闘機マフィアの頭目を自任していたリッチオニ大佐は、後にジョン・マイヤー空軍参謀次長に対してF-XXの有用性を説いたために、1970年には在韓米軍に左遷される憂き目に遭っています。

ボイドはアメリカ海軍のF-14は明らかに重く高価すぎることから、必ずこれを代替ないし補完する機体が必要になると予測したうえで、その種の機体に関する研究で海軍に先んじなければ、空軍は、海軍の研究に基づく機体を押し付けられることになりかねないという論理を構築しました。この論理はリッチオニ大佐によって正式に提案され、空軍上層部により研究予算14万9,000ドルが承認され、ジェネラル・ダイナミクスとノースロップに研究が打診されました。予算配分はジェネラル・ダイナミクスが4万9,000ドル、ノースロップが10万ドルでした。

空軍上層部はF-XX構想に興味は示したものの、空軍では高額な兵器の開発・配備を行うことで請求予算を増やすことが常態化しており、空軍上層部の大部分を占めるF-15推進派は安価な新型戦闘機の出現がF-15導入の予算に影響し、それにより請求できる予算が減額して空軍に配分される予算が減額される可能性があると懸念しこの動きを嫌っていました(実際、戦闘機マフィアの目的は主力戦闘機をF-15からF-XXに取って代わらせることだった）。この結果、ボイドとスプレイは正面からの説得をあきらめ、地下活動に移行することとなりました。しかし、当時国防副長官だったデビッド・パッカードが、CL-1200ランサーの売り込み先を探していたケリー・ジョンソンの助言によりこの計画に興味を持ち、先進技術の実証機として軽量戦闘機（LWF：Light Weight Fighter）F-XXの開発計画を開始しました。

1972年1月6日に提示した要求提案（RFP：request for proposal）は、通常であれば詳細な性能や想定される作戦なども記載され、200ページ程度に達するものであるのに対し、わずか21ページという簡潔な物でした。そこでは、20,000lb（約9トン）級の小型の機体で高い機動性を持ち、搭載される電子機器は単純で、最高速度はマッハ1.6程度、設計案のうち2案による比較テストを行うが量産や制式化は考慮しないとされていました。この要求提案を受け取ったのは9社の航空機製造メーカーでした。そのうち、グラマン（F-14）、フェアチャイルド（A-10）、マクドネル・ダグラス（F-15）、ロックウェル・インターナショナル（B-1）といった、既に新型機の受注を得ていた企業は開発参加を辞退しました。国防総省の社会主義的な受注調整（カルテル）の対象になると見込まれた為です。

この要求提案に応じたジェネラル・ダイナミクス、ノースロップ、ボーイング、LTV、ロッキードの5社のうち、ジェネラル・ダイナミクス社が開発する契約を締結しました。ジェネラル・ダイナミクス社は、1960年代から社内研究案として計画していた軽量戦闘機モデル404/785/786の発展型であるモデル401、ノースロップ社内研究案P-530の発展型であるP-600（後のYF-17）をLWFの審査対象と考えていました。

設計と特徴

F-16は、その革新的な設計思想によって、高い機動性と多用途性を実現しました。

1. ブレンデッドウィングボディ (BWB)
胴体と翼を一体化させることで、揚力増加と抵抗減少を両立し、優れた運動性能を実現。

2. フライ・バイ・ワイヤ (FBW)
電気信号で操縦を行うことで、機体の安定性を高め、パイロットの負担を軽減。

3. コックピット
サイドスティックとリクライニングシートにより、パイロットのG耐性を向上。

4. エンジン
高出力エンジンにより、優れた加速性能と上昇力を実現。

これらの設計思想により、F-16は優れた空戦能力と対地攻撃能力を兼ね備えた多用途戦闘機として、世界中で広く採用されています。

派生型

F-16は、その高い拡張性から、様々な派生型が開発されました。

F-16A/B: 最初の量産型。空対空戦闘を重視した設計。
F-16C/D: 多用途性を高めた改良型。対地攻撃能力が向上。
F-16E/F: 最新の改良型。AESAレーダーやCFTを搭載し、能力が大幅に向上。
F-16V: F-16E/Fの技術を導入した近代化改修型。

実戦参加

F-16は、数多くの実戦に参加し、その高い性能を証明してきました。

バビロン作戦（1981年）：イスラエル空軍がイラクの原子炉を攻撃。
湾岸戦争（1991年）：多国籍軍がイラクを攻撃。
コソボ紛争（1999年）：NATO軍がユーゴスラビアを攻撃。
アフガニスタン紛争（2001年-）：多国籍軍がアフガニスタンを攻撃。
* イラク戦争（2003年-）：多国籍軍がイラクを攻撃。

F-16は、これらの戦いにおいて、対空戦闘、対地攻撃、偵察など、様々な任務を遂行し、その多用途性を示しました。

まとめ

F-16ファイティングファルコンは、革新的な設計思想と高い拡張性により、世界中で広く採用されている多用途戦闘機です。数多くの実戦に参加し、その性能を証明しており、今後も長きにわたって活躍することが期待されます。

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