FM-8

FM-8（エフ・エム・エイト）、正式にはFUJITSU MICRO 8は、1981年に富士通が初めて市場に送り出した8ビットパーソナルコンピュータです。このモデルは、同社がパソコン分野へ本格参入する際の重要な第一歩となりました。

革新的なアーキテクチャ

FM-8の最大の特徴は、モトローラ製のCPU「MC6809」をメインプロセッサとし、これとは別にグラフィックス処理を担う独立したサブプロセッサを搭載した2CPU構成のアーキテクチャを採用していた点です。メインCPUがホストとなり、サブプロセッサがグラフィック表示などの処理負荷の高いタスクを受け持つことで、メインCPUの負担を軽減し、システム全体のパフォーマンスを高めることを目指しました。この先進的な設計思想は、後のFM-7、FM-11、FM-16βといった富士通の主力パソコンシリーズにも引き継がれていきます。

高度な機能と戦略的な価格

FM-8は、当時としては画期的な機能を多数搭載していました。富士通によれば、パソコンとしては世界で初めてとなる大容量64KビットDRAMをメインメモリに採用。これにより、より複雑な処理や大きなデータを扱うことが可能になりました。ディスプレイ表示能力も高く、640×200ドットで8色の表示に対応。さらに、アナログ入力端子やRS-232Cシリアルインターフェースを標準装備しており、外部機器との連携や通信機能が充実していました。これらの高性能ながら、発売価格は218,000円（資料によっては価格に若干のばらつきが見られます）という、当時の市場において戦略的な価格設定でした。

豊富な拡張性と多様な用途

FM-8は、単なるホビーマシンにとどまらず、ビジネス用途も強く意識して設計されていました。漢字ROMによる日本語表示機能や、5インチ・8インチのフロッピーディスクドライブ、さらにはバブルカセットといった多様な補助記憶装置がオプションとして提供されました。加えて、GP-IB（IEEE 488）や各種I/O制御ボードなどの拡張ボードも用意され、計測機器の接続や外部機器の制御を可能にしました。また、富士通の得意とする分野を活かし、FM-8を大型コンピュータのオンライン端末やオフラインのデータ入力端末として利用するためのソフトウェアも提供されました。

さらに、Z80カードや後に登場する8088カードを装着することで、当時の主要なOSであったCP/M|CP_Mをはじめ、OS-9、FLEX、UCSD Pascalなど、幅広いOSや開発環境を利用することができました。これにより、ビジネスソフトウェアの開発者やコンピュータ技術者のニーズにも応えることができました。

その他の特徴と影響

本体設計においては、内蔵電源からの発熱が大きかったため、筐体上部に排熱スリットが設けられ、発表当初のカタログ写真と実際の製品で外観が異なるという珍しい事例もありました。発売当初は供給が追いつかない時期もありましたが、その後市場に定着しました。

ゲーム開発の分野では、2CPU構成の特性を活かすための技術的な工夫が必要でしたが、「YAMAUCHIコマンド」のようなインターフェース仕様が公開され、FMシリーズでのゲーム開発を促進する要因となりました。

FM-8の登場後、一部機能を簡略化しつつ高速化を図った廉価版のFM-7や、機能強化版のFM-11シリーズが発売され、富士通の8ビット/16ビットパソコンラインナップの基礎を築きました。FM-7発売後には、ホビーユーザーの間でメインCPUやサブCPUを高速化したり、カードスロットを外付けにしたりするなど、FM-7との互換性を確保するための本体改造も流行しました。

イメージキャラクターには当時人気のアイドルであった伊藤麻衣子が起用され、女性アイドルをパソコンの販促に使う先駆けの一つとなりました。

また、FM-8で初めて採用された「FM」という製品名は、その後富士通のパーソナルコンピュータ製品に長く引き継がれており、これは他社ではあまり見られない特徴です。

なお、FM-8と同時期には、富士通が生産を請け負い、外観やバブルメモリなど類似点が多い「BUBCOM80」という機種も存在しましたが、こちらは短命に終わっています。

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