FM-16β

FM-16β：富士通が挑んだ16ビットビジネスパソコン

FM-16βは、富士通が1984年12月3日に発表した、ビジネス用途をターゲットとした16ビットパーソナルコンピューターです。当時、FMシリーズの最上位機種として位置づけられ、その高性能ぶりから大きな期待が寄せられました。

主な特徴

FM-16βは、以下の特徴を備えていました。

CPU: メインCPUには8MHzで動作する80186を採用。後に80286を搭載したモデルも追加されました。
グラフィック: サブCPUに68B09Eを搭載し、192KBのVRAMで640x400ドットの画面解像度を実現。テキスト表示では16色、グラフィック表示では16色中8色の同時表示が可能でした。
マルチページ: カラー2画面、モノクロ6画面のマルチページ機能を搭載し、複数の画面を切り替えて作業できました。
漢字ROM: JIS第1・第2水準漢字ROMを標準で実装（SDモデルでは第2水準漢字はオプション）。これにより、日本語での文書作成が容易になりました。
キーボード: 別売でJISキーボードとOASYS方式親指シフトキーボードの2種類が用意され、ユーザーの好みに合わせて選択できました。
OS: CP/M-86|CP_M-86を標準OSとして採用しましたが、後にMS-DOSへ移行。その他、漢字286XENIXも利用可能でした。
周辺機器: FM-11やFM-7シリーズの周辺機器が一部流用可能で、既存ユーザーへの配慮が見られました。
ソフトウェア: FM-11BS用F-BASIC V1.1上位互換のF-BASIC86 V2.0が標準で付属。日本語CP/M-86|CP_M-86は、FM-11用よりも日本語処理機能が強化され、文節変換やインライン変換、複数の登録辞書をサポートしました。

歴史的背景と市場戦略の失敗

FM-16βが登場した1980年代初頭のパソコン市場は、日本電気（NEC）のPC-9801シリーズが大きなシェアを占めていました。富士通は、低価格8ビットパソコンのFM-7で一時的にシャープを抜き、NECに次ぐ2位に躍り出ましたが、企業向け高級16ビットパソコン市場では苦戦を強いられていました。

NECは、オフィスコンピュータのノウハウを活かし、PC-9801の発売前からサードパーティーのソフトウェア開発を支援し、豊富なアプリケーションを揃えることでユーザーを囲い込みました。一方、富士通は、FM-11でMicrosoft BASICではなく独自のF-BASICを採用したことが、他社製機種からの移行を妨げる一因となっていました。

FM-16βは、FMシリーズの最上位機種として、高性能なハードウェアと5インチ1MBフロッピーディスクドライブを搭載し、JIS配列とOASYS方式のキーボードを選択できるなど、先進的な機能が盛り込まれていました。

しかし、富士通のパソコン戦略にはいくつかの誤りがありました。まず、ビジネス向けパソコンであるにもかかわらず、担当が半導体部門であったため、市場ニーズとのずれが生じました。また、標準OSとして当時主流になりつつあったMS-DOSではなく、CP/M-86|CP_M-86を推進したことも、ユーザー離れを加速させました。

1985年5月、富士通はパソコンの開発担当を半導体部門からコンピュータ部門に移管し、7月には標準OSをMS-DOSに変更しましたが、時すでに遅く、16ビットパソコン市場におけるNECのシェアは90%を超える結果となりました。

FMRシリーズへの移行とFM TOWNSへの繋がり

1987年2月、FM-16βはアーキテクチャーを一新したFMRシリーズに置き換えられました。この時、FM-16β用の周辺機器は、ディスプレイやキーボードを含めてほとんどがFMRシリーズに流用できませんでした。この大幅な設計変更について、当時のパソコン雑誌は、富士通の別の戦略、すなわち80386マシンへの布石ではないかと推測しました。

そして、この新しいアーキテクチャーは、1989年に登場するFM TOWNSへと受け継がれることになります。FM-16βは、その後の富士通パソコンの歴史において、重要なターニングポイントとなった機種であると言えるでしょう。

まとめ

FM-16βは、先進的なハードウェアと機能を持つ高性能なパソコンでしたが、市場戦略の誤りから、そのポテンシャルを十分に発揮することができませんでした。しかし、その開発を通じて得られた教訓は、その後のFMRシリーズ、そしてFM TOWNSへと活かされ、富士通のパソコン事業の発展に貢献したことは間違いありません。

参考文献

「ASCII EXPRESS：FM-16β使用レポート」『ASCII』第9巻第1号、アスキー、1985年、156-161頁。

外部リンク

FM16β（エフエムイチロクベータ）-コンピュータ博物館