FM-11

富士通 FM-11

富士通が1982年に世に送り出したパーソナルコンピュータ、それがFM-11（エフ・エム・イレブン、FUJITSU MICRO 11）です。先行機であるFM-8のビジネス用途向け上位モデルとして開発された本機は、その後の富士通製パソコンの系譜において重要な位置を占めることになります。FMシリーズとして初めてキーボードを本体から分離可能な構造を採用し、操作性の向上を図った点も特筆すべき特徴の一つです。フロッピーディスクドライブの内蔵や豊富な拡張スロットを筐体内に備えたため、本体は比較的大きなサイズとなりました。

FM-11の最大の特徴は、その革新的なシステムアーキテクチャにあります。メインCPUとして8ビットのMotorola 68B09E（2MHz）と、16ビットのIntel 8088（8MHz）という、性格の異なる2種類のプロセッサを選択・搭載できる柔軟性を持ち合わせていました。モデルによってどちらかのCPUが標準装備されていましたが、両方のCPUを同時に利用することはできませんでした。しかし、純正オプションとして、搭載されていない方のCPUカードを追加することで、システムを切り替えて使用することが可能でした。さらに、CPUソケット実装の構造を利用し、ユーザーによってより高性能な互換CPU（日立HD63C09EやNEC V20など）に換装されるケースが多く見られました。サードパーティーからもZ80、68008、68000といったCPUカードが登場し、本機の拡張性の高さを物語っています。

メモリ構成も強化され、標準で128KBまたは256KBのメインメモリを搭載していましたが、メモリマッピングレジスタの採用により、最大1MBまでの拡張をサポートしました。また、グラフィック表示機能も大幅に進化しています。サブCPUとして搭載された68B09Eがディスプレイ処理を担い、サイクルスチール転送方式による高速描画を実現。640x400ドットの高解像度表示（8/16色、2画面）や、640x200ドットでの多画面表示（8/16色、4画面）を可能にしました。テキスト表示専用のVRAMを備え、漢字の表示もサブシステム側でサポートされたことは、特にビジネス用途において大きなアドバンテージとなりました。さらに、グラフィック画面とテキスト画面をそれぞれグリーンモニターとカラーモニターに分けて出力できる機能も備えていました。

拡張性はFM-11の設計思想の核であり、CPUカード用スロット2つ、汎用スロット5つ、漢字ROM用スロット1つ、フロッピーインタフェース用スロット1つ（合計9スロット）を本体内に持ちました。これにより、様々な機能拡張が可能となり、サードパーティー製の拡張カードも数多く登場しました。ストレージとしては、5インチ型フロッピーディスクドライブを最大2台まで本体に内蔵可能でした。BASICプログラムの起動方法にはモデルによる違いがあり、「ST」モデルはBASICをROMで搭載していましたが、他のモデルはディスクからロードする方式を採用していました。その他、ライトペン、カセットレコーダー、ハードディスク、バブルカセットなど、多彩な外部オプションが用意されていました。

ソフトウェア面では、搭載CPUに応じて多様なオペレーティングシステムをサポートしました。6809モデルは富士通独自のF-BASICに加え、リアルタイムOSとして知られるOS-9 Level2が標準添付されたモデルが登場し、OS-9ファンから熱烈な支持を受けました。一方、8088モデルはCP/M|CP_M-86やMS-DOSといった当時普及し始めていた16ビットOSに対応し、PC-DOS互換環境を提供しました。さらに、Z80カードを搭載すればCP/M|CP_M-80、その他UCSD PascalやFLEXなども動作させることができました。

その堅牢性と拡張性から、特に6809モデルは単なるホビー用途に留まらず、FA（ファクトリーオートメーション）分野において、計測機器の制御や製造ラインのコントローラーとして長期間にわたり利用されました。また、純正オプションによりRS232Cポートを最大5ポートまで増設可能だったことから、複数のモデムを接続してオンラインコミュニティのホスト機（BBS）として稼働させる例も多く見られました。8088モデルは、後の16ビット機であるFM-16βシリーズへと発展し、さらにその後のFMRシリーズやFM TOWNSシリーズにも、本機のI/O構成などの設計思想が引き継がれています。6809モデルは同時期に展開されたFM-7/77シリーズと併売されましたが、パーソナルコンピュータの8ビット時代が終焉を迎えるとともに、その歴史的な役割を終えました。FM-11という名称は、標準搭載の6809（8ビット）と拡張可能な8088（16ビット）という2種類のメインCPUの間を取り、かつ8ビット寄りであることから「11」と名付けられたと言われています。その先進的なアーキテクチャと高い拡張性は、その後の富士通製パーソナルコンピュータの進化に大きな足跡を残しました。

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