GAZ-AA

GAZ-AA：ソ連が生んだ質実剛健なトラック「ポルトルカ」

GAZ-AAは、ソビエト連邦で生産されたトラックであり、アメリカのフォードAAトラックを原型としています。ゴーリキー自動車工場（GAZ）で生産され、第二次世界大戦中は軍用車両として多用されました。1.5トンの積載量から「ПОЛУТОРКА（ポルトルカ：1.5の意）」という愛称で呼ばれ、ソ連の戦時経済を支えた重要な存在でした。

開発の経緯

1929年、ソ連はフォード社からフォード・モデルA（乗用車）およびフォード・モデルAA（トラック）1930年型のライセンス生産権を取得しました。フォードとの共同事業として設立されたニジニ・ノヴゴロド自動車工場（NAZ）で生産が開始され、1932年1月29日に最初のソ連製AAが完成しました。その後、都市名の変更に伴い、工場名がゴーリキー自動車工場（GAZ）に変更されたため、車輌名もNAZ-AAからGAZ-AAとなりました。

資材の制約やソ連独自の改良が加えられたため、生産途中で様々な仕様変更が行われました。しかし、水冷直列4気筒のサイドバルブエンジンや、前期型フォード・モデルAと同様のボビン回転式速度計は、第二次世界大戦中までGAZ車に引き継がれました。

1938年からはエンジンが強化され（40馬力から50馬力）、改良型はGAZ-MMと呼ばれました。GAZ-MMは戦後の1950年まで生産が続けられました。当初、GAZ-MMはエンジン以外はGAZ-AAと外見上の差異はありませんでしたが、戦時中は資材節約のため、様々な簡略化が行われました。例えば、1941年型では前輪フェンダーが角型に、キャブ屋根が幌に、キャブドアとフロントバンパーが廃止され、前照灯は左側のみ、ブレーキも後輪のみ、荷台のアオリは後方のみが起倒式となりました。

大祖国戦争（独ソ戦）開始時には、15万輌以上のGAZ-AA/MMが赤軍で使用されていました。戦時中には派生型を含め、約98万5千輌が生産されました。

主な派生型

GAZ-AAをベースに様々な派生型が開発され、多様なニーズに対応しました。

GAZ-AAA: 後輪を2軸に増やした6×4トラック。フォード・ティムケン・トラックを基に製作。積載量2トン。約37,000輌生産。
GAZ-410: GAZ-AA/MMベースのダンプトラック。積載量1.2トン。
GAZ-42: 木炭ガス発生装置付き。ガソリン不足に対応。
GAZ-55: GAZ-AA/MMベースの救急車。赤軍で多用。
GAZ-60/65: ハーフトラック型。
GAZ-03-30: GAZ-AA/MMベースのバス。16名乗客。戦前で最も一般的なバス。兵員輸送や救急車としても使用。
* GAZ-05-193: GAZ-AAAベースのバス。特殊用途向け。9名乗客。


GAZ-AAとその派生型は、ソ連の工業化と戦時における重要な役割を果たしました。質実剛健な構造と、戦時下の資材不足に対応するための工夫が凝らされた設計は、ソ連の技術力を示すものであり、「ポルトルカ」の愛称とともに、その名は歴史に刻まれています。

もう一度検索