Gypsy (ソフトウェア)

Gypsyは、1970年代にXerox PARCでラリー・テスラーとティム・モットによって設計された画期的なドキュメント作成システムです。Dan Swinehartらの助言を得て実装され、そのコードは先行するBravoをベースに開発されました。Bravoの開発者であるTom Malloy、Butler Lampson、チャールズ・シモニーらが技術的な支援を行いました。このシステムは、教科書出版社のGinn & Co.向けに開発されたもので、その革新的なユーザインタフェースは、後の文書作成ソフトウェアに大きな影響を与えました。

Gypsyの特筆すべき機能

Gypsyのユーザインタフェースは、当時としては非常に先進的であり、Bravoとは根本的に異なるアプローチを採用していました。BravoもGypsyも、コマンドは現在選択されているオブジェクトに対して実行されますが、Bravoには「モード」という概念が存在しました。Bravoでは、キーを押した際の挙動は現在のモードに依存しており、例えば文字キーを押しても文字が入力されない場合がありました。一方、Gypsyでは、文字キーを押せば常に文字が入力されるという直感的な操作性が実現されています。

具体的な例として、テキストの挿入、置換、コピーの各操作を比較してみましょう。

1. 挿入

Bravoでは、挿入モードに入るために「I」キーを押す必要がありました。その後、Escキーを押すまでバッファーに文字を入力し、Escキーで挿入を完了していました。一方、Gypsyでは、マウスで挿入ポイントを選択し、新しいテキストを入力するだけで、挿入が完了します。各文字は挿入ポイントに直接挿入され、後の文字は自動的に再配置されます。

2. 置換

Bravoでは、既存のテキストを置換するために「R」キーを押して置換モードに入る必要がありました。その後、バッファの内容で選択範囲を置き換えるという手順を踏む必要がありました。Gypsyでは、置換したいテキストを選択し、新しいテキストを入力するだけで、古いテキストが削除され、新しいテキストが挿入されます。この操作は非常に直感的です。

3. コピー

当時のBravoでは、コピー先を選択した後、「I」または「R」キーで挿入モードまたは置換モードに入り、ソースを選択し、Escキーを押してコピーを実行する必要がありました。この操作は非常に複雑であり、ドキュメント間でのコピーはさらに困難でした。Gypsyでは、元のテキストを選択し、「コピー」キーを押し、コピー先を選択して「ペースト」キーを押すだけで、コピー操作が完了します。コピーとペーストの間、システムは通常の状態で、モードの切り替えを気にする必要はありません。

その他のGypsyの優れた点

GypsyとBravoの他の重要な違いとして、以下の点が挙げられます。

テキスト選択: Bravoでは、選択開始と終了に異なるマウスボタンを使う必要がありましたが、Gypsyでは、マウスボタンを押したままドラッグするだけでテキストを選択できます。
高度な操作: Gypsyは、カット、コピー、ペーストに加え、単語をダブルクリックで選択する機能や、Ctrlキーを押しながら文字を選択してスタイルの変更（太字、斜体、下線）を行う機能を導入しました。
メニュー: 使用頻度の低いコマンドはメニューに表示され、各項目にはパラメータを含めることができました。例えば、スキャン（検索）コマンドは、コマンド名をクリックする前に、モードレスでパラメータを入力できました。
モードレス: モードを極力排除したことにより、システムの状態やキー操作の影響に関するユーザーの混乱を大幅に減らすことに成功しました。
マウス操作: Gypsyは、3ボタンマウスを使用しましたが、初心者ユーザーは最初のボタンだけで基本的な操作を完了できました。2番目と3番目のボタンは、Bravoの操作に慣れたユーザーや、ダブルクリックによる単語選択を高速化したいユーザー向けに提供されました。

Gypsyのユーザビリティの目標は十分に達成され、新しいユーザーでも数時間で操作を習得することができました。ドラッグによる選択、ダブルクリック、カット・コピー・ペーストなどの機能は、Dan IngallsがSmalltalk-76からSmalltalkに採用し、AppleのLisaやMacintoshで洗練され、現代のドキュメント作成システムやワードプロセッサソフトの基礎となりました。

参考文献

Gypsy：Ginn Typescriptシステム
Ginnコンピューター支援編集システムの調査「Gypsy」
AltoのGypsyでカット、コピー、ペーストを行うラリー・テスラー

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