Alto

Xerox Alto：GUI時代の幕開け

1973年、ゼロックス社のパロアルト研究所（PARC）で誕生したAltoは、後のパーソナルコンピュータの原型と言える革新的なマシンです。AppleがMacintoshを発表する10年以上も前に、デスクトップメタファーを用いたGUI（グラフィカル[[ユーザインタフェース]]）を搭載し、現代のパソコンの概念を先取りしました。

画期的な設計と高いコスト

Altoは、当時の技術水準から見ると比較的小型の筐体に、カスタム設計されたCPUを搭載していました。10～15年後のパーソナルコンピュータの性能を目標に設計されたため、一台あたりの製造コストは高級車並みに高額でした。そのため、当初はPARCなどの研究機関や一部の大学に限定して少数台しか製造されませんでした。

しかし、AltoはGUIという斬新なインターフェースによって、コンピューティングの世界に大きな衝撃を与えました。1970年代後半には、ゼロックス社内だけでなく、ホワイトハウスなどにも導入され、試作機としては異例の約2000台が製造されました。

AppleとMicrosoftへの影響

AltoのGUIは、当時まだ無名だったスティーブ・ジョブズとビル・ゲイツの目に留まりました。彼らはPARCを訪問し、AltoのGUIを間近で体験、その技術に感銘を受けました。その後のApple Lisa、Macintosh、そしてMicrosoft Windowsの開発には、Altoの影響が色濃く反映されています。Appleは、Altoの技術を学ぶ見返りに、ゼロックスに自社株オプションを提供したという逸話も残っています。

Xerox Starと商業化の失敗

ゼロックス社は、Altoで培われた技術を基に、商業製品であるワークステーション「Xerox Star」を開発しました。しかし、高価格路線のため、市場における成功には至りませんでした。これは、高価格で商業的に失敗したApple Lisaと同様の運命を辿ることになります。

開発と技術者たち

Altoの開発には、多くの優秀な技術者たちが関わっていました。バトラー・ランプソンによる構想を基に、チャールズ・P・サッカーが中心となって設計を担当。ゼロックス社内チームによる製造、そしてジョン・エレンビーらによる電子回路の改良など、多くの技術革新が積み重ねられてAltoは誕生しました。その先駆的な設計と実現により、チャールズ・P・サッカーは2010年にチューリング賞を受賞しています。

ハードウェアアーキテクチャ

Altoは、マイクロコード化された設計を採用していました。Texas Instruments 74181チップをベースにしたALU（算術論理演算ユニット）、書き込み可能なコントロールストア、128KB（最大512KBまで拡張可能）のメインメモリなどを搭載。大容量記憶装置には、着脱可能な2.5MBハードディスクドライブを使用していました。

入出力デバイスとしては、カスタム設計されたキーボードと3ボタンマウスを採用。マウスはAltoユーザー間で広く受け入れられましたが、オプションのコードキーセットはあまり普及しませんでした。ディスプレイは、縦向きに取り付けられた白黒CRTディスプレイでした。

Altoは、機能要素間の境界を曖昧にする設計が特徴的で、CPU、メモリ、周辺機器間のインタフェースが明確に区別されていませんでした。マイクロコードによって、ディスプレイ制御、メモリリフレッシュ、ディスクアクセス、ネットワーク通信などが制御されていました。イーサネットも、最小限のハードウェアでサポートされていました。

ソフトウェアと革新的なアプリケーション

Altoの初期のソフトウェアはBCPL、後にMesa言語で記述されました。Altoでは、テキストやグラフィックを扱う上でラスターグラフィックモデルが採用されており、ビットブロック転送操作（BitBLT）という概念も導入されました。

Altoのために開発されたソフトウェアには、WYSIWYG文書作成システムであるBravoやGypsy、電子メールツールであるLaurel、ベクトルグラフィックエディタであるSil、ビットマップエディタであるMarkup、そしてSmalltalk環境の初期バージョンなど、多くの革新的なアプリケーションが含まれていました。また、初期のネットワーク型マルチプレイヤーゲームであるAlto Trekも開発されました。

Smalltalkと「暫定ダイナブック」

アラン・ケイらがAlto上で開発したSmalltalkは、GUIベースのオペレーティングシステムの先駆けとなり、オブジェクト指向プログラミングの概念を実装した画期的なシステムでした。Smalltalkは、後のパーソナルコンピュータの開発に大きな影響を与え、AppleのLisaやMacintoshの開発にも関与しています。

普及とその後

技術的には小型のミニコンピュータでしたが、Altoはシングルユーザーマシンとして使用できるため、パーソナルコンピュータとみなすことができます。UnixベースのワークステーションやLispマシンなどの先駆けとなりました。

ゼロックス社はAltoの技術の価値を十分に認識せず、商業的な成功には至りませんでしたが、Altoはコンピュータの歴史において重要な役割を果たし、現代のパソコンの礎を築いたと言えるでしょう。そのソースコードは、コンピュータ歴史博物館から公開されています。

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