HEARTY NOTES

Hearty Notes（ハーティー・ノーツ）

概要

『Hearty Notes』（ハーティー・ノーツ）は、日本のフュージョン音楽シーンを牽引してきたバンド、カシオペアが世に送り出した通算26作目にあたるアルバムです。この作品は、彼らの長いキャリアにおいて特筆すべき位置を占めています。なぜなら、常に革新的なサウンドを追求してきたカシオペアにとって、初めてのアコースティック・アルバムとして制作されたからです。エレキギターやシンセサイザーを駆使したテクニカルかつ華やかな従来のフュージョンサウンドとは趣を異にし、アコースティック楽器本来の温もりや響きを前面に押し出した、新たな音楽的挑戦が込められた一枚と言えるでしょう。

作品世界とサウンド

本作の最大の特色は、その名の通り「Hearty」（心のこもった、温かい）なアコースティックサウンドにあります。カシオペアのトレードマークであった電気楽器による疾走感やエフェクティブな音色は抑えられ、代わりにアコースティックギター、グランドピアノ、ウッドベース、そして控えめながらもグルーヴを生み出すドラムといった生楽器の音が中心に据えられています。これにより、楽曲はより繊細で、空間的な広がりを感じさせる響きを帯びています。メンバーそれぞれの演奏スキルはそのままに、アコースティック楽器ならではの表現の深さや、楽器間の有機的な相互作用がより際立つサウンドデザインとなっています。従来のファンにとっては新鮮な驚きであり、また新たなリスナーにとっては、彼らのメロディメーカーとしての資質やアンサンブル能力を純粋に味わうことができる作品となっています。

参加ミュージシャン

本作に参加しているのは、当時のCASIOPEAを支えた盤石のメンバーです。彼らがそれぞれのアコースティック楽器を操り、この新たなサウンドパレットを彩っています。

野呂一生: バンドリーダーであり、その圧倒的なエレキギターテクニックで知られる彼が、ここではアコースティック・ギターを担当。繊細なアルペジオやメロディアスなソロで楽曲に深みを与えています。
向谷実: 鍵盤奏者として、エレクトリックピアノやシンセサイザーを自在に操る向谷実氏が、本作ではグランドピアノをメインに使用。アコースティックならではの豊かな響きで、楽曲のハーモニーとメロディラインを紡ぎ出しています。
鳴瀬喜博: 超絶的なベースプレイでバンドのグルーヴを支える鳴瀬喜博氏が、ここではベースを担当。おそらくウッドベースも交えつつ、アコースティックサウンドに合う温かくも力強い低音を提供しています。
熊谷徳明: ドラマーとしてバンドにパワフルなリズムをもたらす熊谷徳明氏が、ドラムセットで参加。派手なプレイよりも、楽曲の雰囲気に寄り添うような、繊細かつグルーヴィーなビートでアンサンブルを支えています。

これらのメンバーによる、アコースティック楽器での新たな挑戦は、彼らの音楽的探求心と演奏能力の高さを改めて証明しています。

制作を支えた人々

『Hearty Notes』の独特なサウンドは、メンバーの演奏だけでなく、数多くのプロフェッショナルたちの協力によって完成されました。サウンド・プロデューサーとしては、バンド自身であるカシオペアがクレジットされており、彼らが音作り全体を統括したことが分かります。エグゼクティブ・プロデューサーは水谷義昭氏が務めました。

レコーディング・エンジニアは、志村広行氏が多くの楽曲（トラック1、3～8、10）を担当し、ロッス・コックル氏も一部楽曲（トラック2、9）のエンジニアリングを手がけるなど、複数のプロフェッショナルの手によって進められました。ミックス・エンジニアは志村広行氏が担当し、アルバム全体のサウンドバランスを調整しています。マスタリング・エンジニアは、数多くの名盤を手がけてきた小鐵徹氏が担当しており、作品の最終的な音質を決定づける重要な役割を担いました。アシスタント・エンジニアとして柳沢真史氏（Studio Jive所属）とPorter Miller氏が制作をサポートしています。また、テクニシャンとして堀内靖氏、村山義樹氏がクレジットされています。

アルバムの視覚的な側面を担うアートワークも、作品世界を表現する上で重要な要素です。アートディレクションとデザインは辻森茂和氏が手がけ、デジタルアートとデザインは秋山恵子氏が担当しました。写真撮影は、高橋潤一氏、滑田博氏、辻森茂和氏、秋山恵子氏といった複数名が関わっています。これらのスタッフワークが一体となり、『Hearty Notes』という作品世界を完成させています。

作品の意義

『Hearty Notes』は、カシオペアの豊富なディスコグラフィの中で、彼らの音楽性の幅広さと柔軟性を示す重要な一枚です。常に進化し続けるフュージョンバンドとして、エレクトリックサウンドの極限を追求するだけでなく、アコースティックという異なる表現手段にも挑戦した彼らの姿勢は、多くのリスナーに感銘を与えました。このアルバムを通じて、彼らのメロディセンスやアンサンブルの妙が、楽器の音色に依存しない普遍的なものであることが再認識されたと言えるでしょう。後年には、より高音質なハイレゾ版として、鈴木浩二氏によるリマスタリングが施され（2016年7月27日）、再びそのサウンドに注目が集まりました。カシオペアのファンにとっては、バンドの新たな一面を知ることができる、欠かせない作品の一つです。

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