HOPE (宇宙往還機)

HOPE（ホープ）

HOPE（H-II Orbiting Plane）は、1980年代後半から日本の宇宙開発事業団（NASDA）と航空宇宙技術研究所（NAL）が研究を進めていた、再利用可能な無人宇宙往還機の構想です。その機能や形態から「日本版スペースシャトル」とも呼ばれていました。

開発の背景と目的

当時の宇宙開発では、使い捨てロケットが主流でしたが、コスト削減や運用効率向上の観点から、アメリカのスペースシャトルをはじめとする再利用型宇宙往還機が世界各国で研究されていました。ソビエト連邦のブラン、欧州のエルメスなど、多くの計画が資金難などで中止される中、日本独自の技術による宇宙往還機としてHOPEの研究が開始されました。1989年には宇宙政策の指針となる大綱に、将来的な有人宇宙活動を見据え、宇宙ステーションへの物資輸送を目的としたHOPEの研究開発が位置づけられました。HOPEは、スペースシャトルと比較して小型で、完全に無人での自律飛行を目指す計画でした。H-IIロケットのペイロード部に搭載して打ち上げ、軌道上で任務を遂行した後、大気圏に再突入し、航空機のように滑走路に着陸する方式が想定されていました。

技術実証に向けた実験

HOPE計画実現のため、1990年代には要素技術の実証を目的とした複数の実験機が開発・飛行試験を行いました。

OREX（軌道再突入飛行実験機「りゅうせい」）
1994年2月にH-IIロケット試験1号機で打ち上げられ、日本として初めて大気圏再突入技術の実証に成功しました。これにより、再突入時の機体にかかる熱や空力特性に関する貴重なデータが得られました。

HYFLEX（極超音速飛行実験機）
1996年2月にJ-Iロケット試験機1号機で打ち上げられました。高度110kmから分離後、極超音速での滑空飛行を行い、飛行データはほぼ計画通りに取得されました。着水には成功しましたが、機体の回収には至りませんでした。

* ALFLEX（小型自動着陸飛行実験機）
1996年夏にオーストラリアで実施された実験で、HOPEの実機を小型化したモデルを使用しました。ヘリコプターで吊り上げて空中から切り離し、完全自律での滑空・着陸を複数回成功させ、自動着陸技術の確立に貢献しました。

これらの実験は順調に進み、HOPE計画の実現に向けた技術的な基盤が着実に築かれました。

計画の変遷と中止

1990年代後半に入ると日本の経済情勢が悪化し、HOPEのような大規模計画の継続が困難になります。これを受けて、HOPEの実用機開発を直接目指すのではなく、開発費を抑えた実用実験機HOPE-X（H-II Orbiting Plane Experimental）の開発へと計画が見直されました。HOPE-Xは、HOPEから不要な部分を省略した軽量な機体で、将来的にはHOPEとしての運用も可能な設計とされていました。

しかし同時期、建設が進んでいた国際宇宙ステーション（ISS）への物資輸送手段として、使い捨て方式の補給機であるHTV（H-II Transfer Vehicle、後の「こうのとり」）の研究が開始され、HOPE計画の必要性に対して疑問の声が上がり始めました。

さらに、1998年と1999年のH-IIロケット連続失敗は、NASDAに組織改革と宇宙計画の見直しを迫りました。2000年8月、NASDAはHOPE-Xの実機製作を凍結し、今後はHOPEという特定の枠にとらわれず、航空宇宙関連の幅広い技術実験を進める方針を発表しました。これは事実上の開発中止と受け止められています。

計画中止の背景には、同時期に発生した他の宇宙開発関連の失敗（例：ISASのDASH、NALの小型超音速実験機）もあり、日本の宇宙開発全体の技術力向上と組織体制の課題が浮き彫りになったことも影響しています。

その後の技術継承

HOPE-X計画凍結後も、これまでの実験成果を活かす取り組みは続けられました。2002年から2003年にかけて行われたHSFD（高速飛行実証）では、自律飛行・着陸や高高度からの超音速滑空といったHOPE関連技術の実証が行われました。

2003年に日本の宇宙開発機関が統合され宇宙航空研究開発機構（JAXA）が発足した後、2005年に発表された長期計画では、将来的な有人宇宙活動の可能性に言及し、その際にHOPE開発で培われた技術が活用される方針が示されました。また、2006年には将来の再使用型機を見据え、翼の小型化に適したリフティングボディ形状の飛行実験LIFLEX（リフティングボディ飛行実験）も行われましたが、自動着陸実験には至らず凍結されました。

HOPE計画は機体製造・運用には至りませんでしたが、大気圏再突入、極超音速飛行、自動着陸といった将来の再利用型宇宙輸送システムに必要な多くの基盤技術研究を進め、その後の日本の宇宙開発に貴重な知見を残しました。

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