IBM 7030

IBM 7030 (ストレッチ): 革新的なスーパーコンピュータの先駆け

IBM 7030、通称ストレッチは、IBMが初めてスーパーコンピュータの構築に挑んだプロジェクトであり、その技術革新は後のコンピュータ開発に大きな影響を与えました。1961年にロスアラモス国立研究所に最初の1号機が納入されました。

開発の経緯

ローレンスリバモア国立研究所のエドワード・テラーは、三次元流体力学計算用の新たなシステムを求めていました。IBMとUNIVACに提案を依頼し、UNIVACがLARC（Livermore Automatic Reaction Calculator）を受注しました。

IBMは当初、LARCに対抗する提案を準備していましたが、最新のプレーナー型トランジスタが将来性を帯びていたため、提案内容を大幅に見直すことになりました。当初の提案では、点接触型や接合型トランジスタを使用する予定でしたが、より高性能なプレーナー型トランジスタへの変更を決定。IBMはリバモアに対し、当初の提案を破棄し、より高性能なマシン開発に挑戦することを提案しました。

この方針転換により、IBMはLARCの受注を逃しましたが、ロスアラモス国立研究所がIBMの新しい提案に興味を示し、ストレッチプロジェクトが始まりました。1956年11月、IBMはロスアラモス国立研究所との契約を締結。当初の目標性能は「IBM 704の100倍」とされましたが、設計段階でクロック速度の遅延が判明し、性能目標の達成は困難となりました。

1961年にベンチマークテストを行った結果、IBM 7030の性能は「IBM 704の30倍」程度であることが判明。この結果を受け、IBMは価格を1350万ドルから778万ドルに引き下げ、それ以上の販売を中止することになりました。

技術的な影響

IBM 7030自体は当初の目標を達成できなかったものの、多くの革新的な技術を生み出しました。ストレッチのトランジスタ論理回路は「標準モジュラーシステム」として、IBM 7090やIBM 7080、IBM 1620など、後の多くのコンピュータに採用されました。

また、マルチタスク、メモリ保護機能、汎用割り込み機構、8ビットバイトといったコンセプトは、System/360に引き継がれ、その後のCPU設計にも大きな影響を与えました。パイプライン処理、命令プリフェッチとデコード、メモリインターリーブといった技術は、後のスーパーコンピュータ開発に不可欠なものとなりました。これらの技術は、現代のマイクロプロセッサにも受け継がれています。

使用例

IBM 7030は、以下の機関で使用されました。

ロスアラモス国立研究所 (1961年4月納入、1971年6月まで使用)
アメリカ国家安全保障局 (IBM 7950 Harvestシステムの主CPUとして)
ローレンスリバモア国立研究所
イギリス核兵器機関
米国気象局
MITRE社 (ブリガムヤング大学に売却)
アメリカ海軍ダールグレン海軍実験場
IBM
フランス原子力庁

ローレンスリバモア国立研究所とMITRE社/ブリガムヤング大学で使用されたIBM 7030は、コンピュータ歴史博物館にコレクションとして所蔵されています。

アーキテクチャ

データ形式

固定小数点数: 任意の長さで、2進数形式(1ビットから64ビット)と10進数形式(1桁から16桁)に対応。符号なし形式と符号-仮数形式。
浮動小数点数: 1ビット指数符号、10ビット指数、48ビット仮数で構成。全体の符号として4ビットの符号部。
文字: 任意長、8ビット以下の任意の文字コード。
* バイト: 任意長(1から8ビット)。

命令形式

命令は32ビット形式と64ビット形式がありました。

レジスタ

レジスタはメモリの先頭32ワードとオーバーレイ。アキュムレータとインデックスレジスタは符号-仮数形式で処理。

メモリ

16,384ワードを1バンクとして、最大262,144ワード。ワード長は64ビット。メモリは油に浸され、温度が一定に保たれていました。

まとめ

IBM 7030、通称ストレッチは、当初の目標性能を達成できなかったものの、その革新的な設計と技術は、後のコンピュータ開発に大きな影響を与えました。スーパーコンピュータの歴史において、重要な転換点となった一台と言えるでしょう。

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