Iceweasel

Iceweaselとは

Iceweasel（アイスウィーズル）は、かつて存在したウェブブラウザであり、同時にその開発プロジェクトの名称でもありました。これは、Mozilla Firefoxと非常に近い関係にありましたが、商標の問題から独立した存在となりました。元々はDebianプロジェクトによって開発されたものが最初期に存在し、その後GNU[[プロジェクト]]でもGNU IceWeaselとして派生版が作られました。しかし、GNU IceWeaselは後にGNU IceCatへと名称変更されています。Iceweaselという名称は、英語で「氷のイタチ」を意味します。

Iceweasel誕生の背景

Iceweaselが誕生した背景には、Mozilla CorporationとDebian Projectの間で起こった商標に関する意見の対立がありました。2006年2月、Mozilla CorporationのMike Connor氏がDebian Projectに対して、Firefoxの商標を使用する上での条件を提示しました。その内容は以下のようなものでした。

Firefoxの商標を使用する際は、公式のロゴとアートワークを使用すること。
Firefoxのビルドオプションを変更する際には、Mozilla Foundationからの承認を得ること。
Firefoxのソースコードに変更を加える際には、変更理由と共に差分パッチをMozilla Foundationに提出すること。
古いFirefoxのソースコードに新しいFirefoxのソースコードを移植するというDebian Projectのメンテナンス手法は認められない。

当時、Debian ProjectはFirefoxのロゴを、ライセンス上の都合から非公式のロゴに差し替えて提供していました。また、Debian OSでは、リリース後のソフトウェアのバージョンアップを避け、問題が発生した際にはソースコードに最小限の修正を加えるという方針を採っていました。これはFirefoxに対しても同様でした。

これらの条件に対し、Debian Projectは議論を重ねた結果、Firefoxの商標を使用しないという結論に至り、新たにIceweaselという名称を使用することにしました。この名称は、2004年に同様の問題が浮上した際に、Mozilla FoundationとDebian Projectの間で話し合われた結果、Mozilla Trademark Policyに追加されることとなった項目名から取られています。ただし、この項目名は草案の段階で削除されたため、正式なMozilla Trademark Policyには存在しません。

Debian Projectは、Firefoxの商標を使用し、非公式サービス内でFirefoxを提供するという選択肢も検討しました。しかし、非公式サービスはセキュリティサポートの対象外となり、エンドユーザーにとって不利益となる可能性がありました。また、商標の利用はDebian Projectのみに許可されるため、第三者が再配布する際には制約が生じ、これもDebian Projectの方針に合致しませんでした。

Debian 4.0（etch）から、Firefoxの代替としてIceweaselが提供開始されました。同様の問題は、Mozilla ThunderbirdやMozilla Sunbirdにも存在したため、それぞれ「Icedove（アイスダブ＝氷の鳩）」「Iceowl（アイスアウル＝氷の梟）」という別名が新たに作られました。また、Mozilla Foundationとは直接関係のないSeaMonkeyにも、Iceape（アイスエイプ＝氷の猿）という別名が用意されました。

IceweaselからFirefoxへ

2010年2月、Iceweaselのメンテナーであり、FirefoxのコミッターでもあったMike Hommey氏が、Firefoxの公式ロゴのライセンスがDebian Projectの方針に合致する形に変更されたことを発見しました。しかし、商標による制約は残っていたため、Mike Hommey氏はそれを解決するための要望書をMozilla Foundationに提出しました。

その後、2016年2月には、Mozilla Corporationの社員であり、Debian開発者でもあるSylvestre Ledru氏によって、名称をFirefoxに戻すためのリクエストが提出されました。その内容は以下の通りです。

FirefoxのロゴはDebian Projectの方針に合致したライセンスに変更されている。
Debianが適用しているパッチは製品に悪影響を与えないことを確認し、今後はパッケージャを信頼する。
バージョンを上げないメンテナンス方法から、バージョンを上げるメンテナンス方法に変更されている。
Iceweaselに改名する発端となった問題は全て解決したので、名称をFirefoxに戻す。

そして、2016年3月11日、名称をFirefoxに戻した最初のバージョンであるfirefox-esr 45.0esr-1がアップロードされました。

まとめ

Iceweaselは、商標問題によってFirefoxから派生したウェブブラウザでしたが、その後の経緯により、最終的にはFirefoxへと名称を戻しました。この一連の出来事は、ソフトウェアの商標やライセンス、そしてコミュニティとの関係について、多くの示唆を与えてくれます。また、Debianがどのようにソフトウェアを管理しているかを示す事例でもあります。現在では、Iceweaselの名前は過去のものとなり、Debianユーザーは再びFirefoxを利用していますが、その背景にはこのような複雑な歴史があったことを覚えておくと良いでしょう。

脚注

Debian Projectでは、ソフトウェアのメンテナンスにおいて、リリース後のバージョンアップを避け、最小限の修正を加えるという方針を採っていた。
Iceweaselという名称は、Mozilla Trademark Policyの草案に存在したが、正式な文書には含まれていない。
Debian Projectは、非公式サービスを利用したFirefoxの提供も検討したが、セキュリティや再配布の問題から断念した。

関連項目

Mozilla Firefox
Debian
Debian社会契約
Debianフリーソフトウェアガイドライン
Mozilla Corporation
Mozilla Foundation

外部リンク

Overview of iceweasel source package (英語)
Debian and Mozilla - a study in trademarks - LWN.net (英語)
FirefoxをめぐるDebianとMozillaの対立の背景 - SourceForge.JP Magazine
* Debian Project, Firefoxの名称を変更する方向へ - スラッシュドット ジャパン

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