Itanium

Itanium（アイテニアム）とは

Itanium（アイテニアム）は、インテルが2001年にリリースした64ビットマイクロプロセッサです。ヒューレット・パッカード（HP）と共同開発したIA-64命令セットアーキテクチャを初めて採用し、主に高性能サーバー市場をターゲットとしていました。しかし、その開発の遅れや市場の変化により、広く普及することなく、2021年に製造が終了しました。ここでは、その概要、詳細な技術的特徴、歴史、採用状況、そして批判について詳しく解説します。

概要

インテルは1994年、それまで主流だったx86アーキテクチャ（IA-32）に代わる新しい64ビット命令セットアーキテクチャ「IA-64」を発表しました。これは、従来のx86との互換性を切り捨て、ソフトウェアによる並列処理を重視したEPICアーキテクチャを採用することで、高性能と将来の拡張性を目指したものでした。IA-64を採用した最初のプロセッサがItaniumで、2001年にリリースされました。

しかし、Itaniumは開発が遅れ、当初の予定から2年遅れての登場となりました。その結果、当時のRISCプロセッサやインテルのXeonプロセッサと比較して、価格性能比が低く、対応するハードウェアやソフトウェアも限られていたため、広く普及しませんでした。

2002年には、性能を改善したItanium 2がリリースされました。その後、2008年に「Itanium 9000」に名称変更されましたが、同時期の他社製プロセッサや、x86-64（AMD64）の普及により、IA-64（Itanium）は、一部のメインフレームやミッドレンジコンピュータの移行先など、限定的な市場にとどまりました。

Itanium 2の詳細

Itanium 2は、RISCプロセッササーバーやメインフレームの代替を目的として開発され、信頼性の向上をプロセッサレベルで実現しています。その主な特徴は以下の通りです。

16KBの1次命令キャッシュと16KBの1次 (L1) データキャッシュ
2次 (L2) キャッシュは規定されていないが、一般的に256KB（命令/データ共通）
3次 (L3) キャッシュは機種により1.5MB〜24MB
128ビット幅のシステムバス (200MHzで6.4GB/s、2005年には333MHzで10.6GB/s)

マイクロアーキテクチャ上の変更点としては、整数演算およびメモリユニットが2個から4個に拡張されたこと、命令発行の組み合わせが増えたこと、パイプライン段数が10段から8段に変更されたことなどが挙げられます。

また、IA-64だけでなく、IA-32ベースのアプリケーションも実行可能でした。ただし、初期のItanium 2では、IA-32を処理するハードウェアデコーダが搭載されていましたが、後のモデルではソフトウェアエミュレータが使用されるようになりました。

歴史

Itaniumシリーズの歴史は以下の通りです。

1994年: インテルとHPがIA-64の共同開発を発表
1999年: IA-64の詳細を発表
2001年: Itanium (Merced) リリース
2002年: Itanium 2 (Mckinley) リリース
2003年: Itanium 2 (Madison) リリース
2004年: HPがItaniumの設計から撤退
2005年: Itanium Solutions Alliance (ISA) 発足
2006年: Itanium 2 9000 (Montecito) リリース（後にItanium 9000に改称）
2007年: Itanium 2 9100 (Montvale) リリース（後にItanium 9100に改称）
2008年: Itanium 2をItaniumと改称
2010年: Itanium 9300 (Tukwila) リリース
2012年: Itanium 9500 (Paulson) リリース
2017年: Itanium 9700 (Kittson) リリース
2020年1月30日: 最終受注日
2021年7月29日: 最終出荷日

各世代の詳細

Itanium 世代

Merced (2001年): 180nmプロセス、最大800MHz。外部3次キャッシュを搭載するも、性能は市場の期待に応えられず。

Itanium 2 世代

Mckinley (2002年): 0.18μmプロセス、実行ユニットを強化し、性能を最大2倍向上。IA-32性能も改善されたが、当時のx86プロセッサには及ばず。
Madison (2003年): 0.13μmプロセス。3次キャッシュを最大9MB搭載。
Deerfield (2003年): Madisonの低電圧版。消費電力を大幅に削減。
Hondo (2003年): HPが開発したデュアルプロセッサモジュール。2つのMadisonコアと32MBのL4キャッシュを搭載。
Fanwood (2004年): Madison (Deerfield) の派生版。FSBクロックを向上。

Itanium 9000 世代

Montecito (2006年): デュアルコアプロセッサ。90nmプロセスで製造。前世代に比べ、性能が向上し、消費電力が削減。
Montvale (2007年): Montecitoの機能強化版。DBSによる省電力機能を追加。コアレベルロックステップ機能搭載モデルも登場。

その他の世代

Tukwila (2010年): 4コア。QuickPath InterConnectとDDR3メモリコントローラを搭載。
Poulson (2012年): 最大8コア。マルチスレッド処理を強化。
Kittson (2017年): 最終世代。機能面は9500から変化なし。

採用状況

当初、IA-64は各社のRISCプロセッサと競合し、AMDなどの互換プロセッサベンダーを振り切ると期待されていました。しかし、初代Itaniumの性能不足、対応アプリケーションの少なさ、IA-32互換モードの遅さなどから、普及は限定的になりました。また、x86-64（AMD64）の登場と普及により、IA-64（Itanium）はニッチ市場に留まることになりました。

2004年にはHPがItaniumの設計から撤退し、2005年にはItanium Solutions Alliance (ISA) が設立されました。マイクロソフトやレッドハットなどの主要ソフトウェアベンダーもItaniumのサポートを中止し、オラクルもItanium向けのソフトウェア開発を終了しました。最終的に、Itaniumは一部のメインフレーム、オフィスコンピュータ、HP-UX稼働サーバーなどに採用されるに留まりました。

批評

Itaniumの主な設計上の問題は、3次キャッシュの遅延時間が大きすぎた点にあります。インテルの設計者は、バンド幅が大きければレイテンシの問題は相殺されると考えていましたが、実際にはキャッシュが遅くなり、主記憶とのインターフェースと大差なくなってしまいました。また、キャッシュ容量が小さく、IA-64コードがx86に比べて大きくなる傾向があったため、キャッシュ効率も低いものでした。

Itaniumはマルチプロセッサを前提に設計されたため、バスも低速でした。当時の競合プロセッサと比較して、クロック周波数も低く、結果として、開発の遅延により、出荷前に時代遅れになってしまったと言えるでしょう。ただし、シングルスレッドの実行に関しては、Itaniumがx86よりも高速であると主張する支持者もいます。

まとめ

Itaniumは、インテルが野心的に開発した64ビットマイクロプロセッサでしたが、開発の遅延、市場の変化、技術的な課題などにより、広く普及することはありませんでした。しかし、その技術的な挑戦は、後のプロセッサ開発に大きな影響を与えたと言えるでしょう。

関連項目

IA-64アーキテクチャ
Intel 64アーキテクチャ
Xeon
Opteron

外部リンク

* インテル Itanium プロセッサー

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