J-2X

J-2Xロケットエンジンの概要

J-2Xは、アメリカのエアロジェット・ロケットダイン社が開発した極低温液体燃料ロケットエンジンです。このエンジンは、NASAのコンステレーション計画において打ち上げ機として採用される予定であったアレスロケット用に設計されました。性能面では、真空中での推力が約1,307 kN（294,000 lbf）、比推力（Isp）が448秒（4.39 km/s）を誇ります。また、エンジン自体の重量はおよそ2,470 kg（5,450 lb）であり、従来のJ-2に比べて重量が増加しています。

開発の背景

J-2X開発の契機となったのは、2007年に始まるコンステレーション計画です。この計画は、アポロ計画で使われたサターンロケットのS-IIおよびS-IVBに搭載されたJ-2を基にしており、アレスIロケットのさらなる重体化に伴い、推力不足が問題視されました。そこで新たに設計されたのがJ-2Xです。

当初はアレスIおよびアレスVの上段エンジンとして使われる予定でしたが、コンステレーション計画が中止されたため、最終的には後継プロジェクトであるスペース・ローンチ・システム（SLS）におけるSLSブロックIIの地球離脱ステージへの搭載が考慮されるようになりました。

設計の特徴

J-2Xは、もとのJ-2と比較して効率を高め、構造を簡素化することを目指しました。主な改良点は、以下のとおりです。

• - ベリリウムの使用を停止し、環境に優しい設計を採用
• - J-2の軸流ターボポンプに代わり、遠心ターボポンプを導入
• - 燃焼室やノズルの膨張比を変更し、全体のサイズと効率を調整。
• - 従来の管溶接構造から壁面チャネル構造へと改良
• - 電気システムの全面的な再設計と、ガス発生器・超音速噴射器のアップデート。

試験の経緯

2007年7月16日、NASAはJ-2Xエンジンの設計・開発をエアロジェット・ロケットダインに発注し、契約金は12億ドルにも及びました。その後、同年8月23日にはジョン・C・ステニス宇宙センターで高空燃焼試験台の設置が開始されました。

初期試験は2007年12月から2008年5月にかけて行われ、J-2を用いた予備試験も含まれ、2008年9月8日にはガス発生器の単体試験に成功しました。2011年以降は実機型エンジンの燃焼試験も始まり、徐々に試験が進展しました。

• - 2011年6月に第1回燃焼試験を実施
• - 2012年には1,350秒の燃焼時間を達成
• - 2013年には試験エンジンの最終燃焼試験が行われました。

開発中断の背景

しかし、2013年10月には資金不足や火星有人探査に必要なエンジン能力の遅延が懸念され、さらにはSLS探査ステージのRL-10エンジンの採用が決定されました。この結果、2014年をもってJ-2Xの開発は中断されることとなりました。

結論

J-2Xは、アメリカのロケットエンジン開発において重要な役割を果たしたものの、資金難やプロジェクトの変更によりその運命は大きく変わりました。その技術的な進歩や試験段階での成果は、今後のロケット技術の発展においても評価されるでしょう。

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