エアロジェット・ロケットダイン

エアロジェット・ロケットダインは、アメリカ合衆国カリフォルニア州サクラメントに本社を置く、ロケットやミサイルの推進システムを製造する主要企業です。持株会社GenCorpの傘下にあり、宇宙探査、防衛、商用宇宙飛行など、幅広い分野に貢献しています。

設立の経緯

この企業は2013年に、GenCorpが既に所有していたエアロジェット社と、プラット・アンド・ホイットニー社からGenCorpが株式を取得したロケットダイン社が合併することで誕生しました。両社はアメリカ航空宇宙産業の黎明期から活動する歴史ある企業であり、その技術と遺産を結集する形で新たな推進システム開発のリーダーとして歩み始めました。

買収計画とその断念

2020年12月、航空宇宙防衛大手であるロッキード・マーティン社がエアロジェット・ロケットダインの買収に合意したと発表しました。しかし、この買収計画に対しては、競争環境への影響を懸念する声が上がり、アメリカ連邦取引委員会（FTC）が反トラスト法（独占禁止法）違反の可能性を指摘しました。結果として、ロッキード・マーティン社は2022年にこの買収を断念することとなりました。

主な製品：ロケットエンジン

エアロジェット・ロケットダインは、多種多様なロケットエンジンを開発・製造しています。その中には、歴史的に重要な役割を果たしたエンジンや、現在も主要な打ち上げロケットで使用されているエンジンが含まれます。

現在のエンジン

RS-25: 液体水素と液体酸素を推進剤とするエンジンです。かつてスペースシャトル計画で再利用可能な主エンジンとして活躍しました。現在、現存するRS-25エンジンは、NASAの次世代大型ロケットであるスペース・ローンチ・システム（SLS）の第一段用として順次消費される予定です。在庫が尽きた後は、SLSの打ち上げに適した使い捨て仕様の新型RS-25Eが開発され、使用される計画です。
RL10: プラット・アンド・ホイットニー社によって開発された、液体水素と液体酸素を使用する高性能な上段用エンジンです。現在、アトラスV ロケットのセントール上段や、デルタIVロケットの上段で使用されています。過去には、タイタンロケットのセントール上段、サターンI ロケット、さらには垂直離着陸実験機であるマクドネル・ダグラス DC-X「デルタクリッパー」など、多くの重要なプログラムで信頼性の高さを証明してきました。NASAの月面着陸機計画であるアルタイルでも、主推進エンジンとしての使用が検討されていました。
RS-68: 液体水素と液体酸素を推進剤とする、デルタIVロケットの第一段を主に担当するエンジンです。
J-2X: 液体水素と液体酸素を使用するエンジンで、2013年時点ではスペース・ローンチ・システム（SLS）のブロックIIにおける地球離脱段での使用を目指して開発が進められていました。
Baby Bantam: ケロシンと液体酸素を推進剤に用いる小型エンジンです。2014年6月には、3Dプリンター技術を試行的に製造工程に導入する取り組みが成功したと発表されました。約22 kN（5,000 lbf）の推力を発生する実証エンジンです。
AJ-26: RP-1（ロケット燃料用ケロシン）と液体酸素を使用するエンジンです。これは、ロシア製の高性能エンジンNK-33を輸入し、アメリカの要求に合わせて改良・名称変更したものです。かつて、アンタレスロケットの第一段に使用されていました。

以前生産されたエンジン

SJ61: JP-7燃料と空気を使用する、ラムジェットとスクラムジェットの両モードで飛行可能なエンジンです。ボーイングX-51極超音速実証機に搭載され、極超音速飛行試験に貢献しました。
AJ-10: A-50（ヒドラジン系燃料）と四酸化二窒素（N2O4）を推進剤とする、デルタIIロケットの第二段用エンジンとして知られています。

将来に向けた計画

AR-1

AR-1は、2014年にエアロジェット・ロケットダインが提案した、推力約2,200 kN（500,000 lbf）級のケロシン/液体酸素エンジン計画です。「完全新設計のアメリカ製ロケット推進システム」の開発を目指すこの計画は、連邦政府からの予算獲得に向けたロビー活動の一環として示されました。2014年6月時点の試算では、政府からの開発費用として最大10億ドルが見積もられていましたが、エンジン単体の価格は2,500万ドル以下を目指すとされていました。

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