KISekae Set system

KISS（着せ替えセットシステム）とは

KISekae Set system（着せ替えセットシステム、通称KISS）は、1991年に日本で生まれた、デジタルな「着せ替え人形」を楽しむためのシステムです。当初は仮想の「紙人形」をコンピュータ上で作成・表示することを目的としていましたが、その双方向性やアニメーション機能から、単なるコンピュータグラフィックスとは異なる、独自のデジタルアートの形式として発展しました。

KISSの動作環境

KISSはオープンスタンダードであり、PCだけでなく、PDAやWebページ、Javaなど、様々なプラットフォームで実装されています。この柔軟性も、KISSが世界中に広まる要因となりました。

KISSの歴史

KISSは、日本の少女漫画のキャラクターをモチーフにした「人形」から始まりました。初期のKISSは、複数の静止画像を重ねて動かすことで、まるで人形が服を着ているように見せるシンプルなものでした。しかし、コンピュータグラフィックスの技術により、レイヤー構造を重ね合わせることで、奥行きのある表現が可能になり、従来の紙人形にはない魅力を備えていました。

初期のソフトウェアはPC-9800シリーズ向けに開発され、16色のパレットで人形を表示していました。その後、VGAビデオカードの普及に伴い、256色や複数の16色パレットをサポートした「KISS/GS2」が登場しました。さらに、双方向性やアニメーションを制御する「French KISS（fkiss）」や、32ビットトゥルーカラーをサポートする「Cherry Kiss（ckiss）」といった拡張機能が追加されました。

1990年代後半には、日本のBBSコミュニティからインターネットを通じて、KISS人形を作成するアーティスト、サポートツールを開発するプログラマー、そして熱心なファンが世界中に現れ、KISSは国際的な広がりを見せました。

KISSのセットは一般的に「人形」と呼ばれますが、その内容は着せ替えに限らず、福笑いやウェディングケーキ、ドールハウス、戦艦、さらにはパズルやゲームなど、多岐にわたります。このような人形以外のセットは、英語圏では「aberrant KiSS」（異常なKISS）と呼ばれることもあります。

KISSの形式

KISSセットは、多数のファイルから構成されています。これらのファイルは、LZH形式（日本で推奨されるアーカイブ形式）でパッケージされ、単独の「人形」として配布されます。ビューアプログラムは、LZH形式から個々のファイルを取り出して使用します。

ファイルには、アニメーションセルに似た未圧縮の画像データである「セル」ファイル、パレット情報を含む「KCF」ファイル（KISS/GS2の場合）、設定ファイル、音楽用のMIDIファイル、効果音用のWAVファイル、作者によるテキストファイルなどが含まれています。

設定ファイルは、フィールドサイズ、重ね合わせ、セルの位置、パレットの使用、双方向操作やアニメーションなどのイベントを制御するために使用されます。また、KISS/GS2以降のすべてのバイナリファイルには、共通の32バイトバイナリヘッダレコードが含まれており、データのサイズや種類、形式などを識別できます。

追加セット

KISSセットでは、「追加セット」という仕組みにより、他のKISSセットからリソースを流用することができます。これにより、元のセルを新しいセットに組み込むことなく、新しいバージョンの人形を作成することが可能です。これは、以前のバージョンを置き換えることなく、異なる作者が人形にデータを追加できるという利点があります。

KISSの拡張機能

KISSには数多くの拡張機能が追加されてきましたが、メインのKISS形式に正式に組み込まれたものはありません。これらの拡張機能は、互換性を維持するために設定ファイル内でコメントとして表現されます。

French KISS (fkiss)

「French KISS」（fkiss）は、KISS/GS2仕様への実験的な追加機能として開発された、イベント駆動型のスクリプト言語です。fkissにより、アニメーションや双方向性の表現が豊かになり、KISSの可能性が大きく広がりました。

すべてのfkiss命令は、設定ファイル内で「;@」で始まる行として記述されます。当初はコメントとして隠蔽されていましたが、現在ではすべてのビューアで標準的にサポートされています。

fkissは、FKiSS2、FKiSS3、FKiSS4というように拡張されてきました。FKiSS2では、衝突検出、相対移動、条件テストが追加され、FKiSS3では、変数、計算、制御構造が追加され、より本格的なスクリプト言語に近づきました。FKiSS4では、ユーザーグループ化のサポートが追加されましたが、まだ対応しているビューアは少ないです。

初期化タグ

初期化タグは、セルの定義を拡張するもので、セルの末尾に「%」とコードを付加することで、初期透明度、表示状態、クリック可否、オフセットの上書きなどの属性を制御できます。

プラグマ

プラグマは、設定ファイル内のコメントとして記述されるもので、ビューアプログラムに対してセットの最適な表示方法を指示します。また、他のKISSセットの追加セットであることを示すためにも使用されます。

Cherry Kiss (ckiss)

「Cherry Kiss」（ckiss）は、バイナリデータヘッダレコードの拡張であり、他の拡張機能とは異なり、設定ファイルには変更を加えません。ckissは、セルファイルが24ビットカラーデータと、可変透明度のための8ビットアルファチャネルを含むことを可能にします。

グループ化

グループ化は、多数のセルを制御したり、特定のセルを一意に識別したりするために、fkiss4で追加された機能です。

KISSの作成

KISSの作成には、標準的な画像形式（BMP、GIF、PSDなど）からKISSセルとKCFファイルに変換するプログラムが必要です。作者は、任意のグラフィックソフトウェアで画像を作成し、テキストエディタで設定ファイルを記述します。KISSビューアで表示と微調整を行い、LZH対応のアーカイバでパッケージングすれば、KISSセットの完成です。

これらのソフトウェアや詳しいチュートリアルは、インターネットから無料で入手できます。

KISSのコミュニティ

現在のKISSコミュニティは、Dollzコミュニティと似ている部分もありますが、KISSはより専門的な分野であり、互いに独自の文化を尊重しています。英語圏のKISSコミュニティは、the BiG KiSS Pageという大規模な人形アーカイブを中心に活動しています。

KISSには、着せ替えの特性から、「アダルト」KISSというサブジャンルも存在します。

Eric Zimmermanは、KISSが脱衣ゲームになりがちな理由として、以下の点を指摘しています。

多くの人形が初期状態で衣装を身につけているため、最初の操作は必然的に服を脱がせることになる。
服の移動がドラッグ・アンド・ドロップで行われるため、服を脱がせるのが簡単で、服を着せるのはピクセル単位の調整が必要なため面倒である。

まとめ

KISSは、単なる着せ替え遊びにとどまらず、高度な技術と創造性を駆使したデジタルアートの形式として、独自の進化を遂げてきました。その柔軟性と拡張性、そして熱心なコミュニティにより、今後もその可能性は広がり続けるでしょう。

もう一度検索