KS鋼

KS鋼（KSこう）とは

KS鋼は、コバルト、タングステン、クロム、炭素を主成分とする鉄合金であり、世界初の永久磁石として知られています。その優れた磁気特性から、当時は画期的な素材として注目を集めました。KS鋼は、その開発背景から、日本の科学技術史においても重要な位置を占めています。

歴史

KS鋼が登場する以前は、タングステン鋼が磁石材料として用いられていました。しかし、第一次世界大戦の勃発により、タングステン鋼の主要な供給源であった海外からの輸入が困難となりました。この状況を受け、軍からの要請で、新たな磁性材料の研究が開始されました。

1916年（大正5年）、東北帝国大学（現在の東北大学）の本多光太郎と高木弘は、鉄の磁性研究に取り組みました。その結果、1917年（大正6年）に、コバルトを添加した画期的な磁石鋼であるKS鋼が発明されました。このKS鋼は、当時のタングステン鋼と比較して、約3倍もの保磁力を誇り、世界最強の永久磁石として一躍脚光を浴びました。

KS鋼の発明は、単に新しい磁石材料が生まれたというだけでなく、日本の科学技術の発展に大きな影響を与えました。特に、計測機器の性能向上に大きく貢献し、工業の発展を加速させました。また、KS鋼の開発は、日本国内での磁性材料研究を活性化させるきっかけとなりました。

特許は住友吉左衛門に無償で譲渡され、住友は特許料を得て、東北帝国大学に30万円（当時の金額）を寄贈しました。この特許は、独シーメンス社、米ウェスティングハウス社にも採用され、国際的な技術交流にも貢献しました。

その後、1931年（昭和6年）には、東京帝国大学の三島徳七によって、KS鋼の2倍の保磁力を持つMK鋼が開発されました。しかし、1934年（昭和9年）には、本多らによって新KS鋼が開発され、再び最強の磁石としての地位を取り戻しました。

名前の由来

KS鋼の名前は、発明者である本多光太郎と高木弘が所属していた東北帝国大学臨時理化学研究所（後の金属材料研究所）に、多額の研究費を寄付した住友吉左衛門（住友グループの前身である住友総本店店主、住友家第15代目当主）のイニシャルに由来します。住友吉左衛門の支援がなければ、KS鋼の開発は実現しなかった可能性もあり、その功績を称えて名付けられました。

構造

KS鋼は、コバルト、タングステン、クロムを含む特殊鋼です。その組成範囲は、コバルトが30〜40%、タングステンが5〜9%、クロムが1.5〜3%、炭素が0.4〜0.8%で、残りが鉄で構成されています。この特殊な組成が、KS鋼の優れた磁気特性を生み出しています。

保磁力

KS鋼は、当時の高性能磁石であったタングステン鋼（約70エルステッド）と比較して、約3倍の保磁力（250エルステッド）を有していました。この高い保磁力が、KS鋼が多くの分野で利用された大きな理由です。保磁力が高いほど、外部の磁場によって磁力が失われにくく、安定した磁石として使用できるため、高性能な計測機器や様々な電気製品に採用されました。

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