Luna

Luna (ルナ)

Lunaは、マイクロソフトが開発し、オペレーティングシステムであるWindows XPおよびWindows Server 2003に標準で搭載された、ユーザーインターフェースの外観を定義する要素の一つです。

用語としての位置づけ

Windowsにおいて、GUI（グラフィカルユーザーインターフェース）の外観全体を変更する機能は「テーマ」と呼ばれます。中でも、Windows XP以降に導入された視覚的に豊かなデザインは「ビジュアル スタイル」と称されます。Lunaは、このビジュアルスタイルの一つにあたります。ただし、「Luna」は開発中のコードネームや通称であり、正式な名称ではありません。Windows XPにおいては「Windows XP スタイル」と表現されています。また、Windows XP以前のバージョンと同様の、ビジュアルスタイルを使用しない簡素な外観は「クラシック スタイル」と呼ばれ、Lunaと対比されます。アプリケーションがビジュアルスタイルに対応するには、後述の技術的な要件を満たす必要があります。

特徴的な外観デザイン

Lunaの最も大きな特徴は、そのデザインにあります。デフォルトでは青色を基調とした配色が採用されており、ウィンドウのタイトルバーや枠、スタートメニュー、タスクバー、スクロールバー、さらにはログオン画面に至るまで、システム全体のグラフィカル要素に統一されたデザインが適用されます。デザイン全体に丸みを帯びた形状と、光沢感を表現するグラデーションが多用されており、視覚的に明るく親しみやすい印象を与えました。標準の青色の他、シルバーとオリーブグリーンといったバリエキュアカラーも用意されており、一部のメーカー製PCでは初期設定としてこれらの配色が採用された例も見られます。Windows XPのデフォルト壁紙として有名な「草原（Bliss）」はLunaと組み合わせて使われることが多かったものの、これはクラシックスタイルでも利用可能でした。

Lunaに使用されるデザインリソースは、Windows bitmap形式の画像としてシステムファイル内に組み込まれています。ボタンの上にマウスカーソルを合わせたり、クリックしたり、ドラッグしたりする際に色が変わるなどの単純なアニメーション効果も含まれていました。そのため、クラシックスタイルと比較すると、システムリソース（CPU負荷やメモリ使用量）が増加する傾向がありました。ただし、アニメーションやフェード効果、ウィンドウの影といった視覚効果は、システムの詳細設定によって個別に有効・無効を切り替えることが可能でした。

Lunaから派生・関連するビジュアルスタイル

マイクロソフト純正

Lunaを基盤として、マイクロソフト自身によって開発された派生的なビジュアルスタイルがいくつか存在します。

Royale: Windows XP Media Center EditionやTablet PC Edition向けにデザインされたビジュアルスタイルです。「エナジーブルー」テーマとしてプリセットされ、Lunaよりもさらに洗練されたグラデーションと光沢感が特徴です。当初はこれらの特定エディション限定でしたが、後に一般向けにも「Royale Theme」として提供されました。「エナジーブリス」というRoyaleの配色に合わせた壁紙も追加されています。
Zune Desktop Theme: マイクロソフトの携帯音楽プレーヤー「Zune」の発売を記念して期間限定で配布されたテーマです。Royaleをベースに、Zuneのイメージカラーである黒を基調とした配色に変更されており、専用の壁紙が付属しました。
* Royale Noir: 公式にはリリースされなかったRoyaleテーマのバリエーションで、インターネット上に流出したものです。タイトルバーは青みがかった黒、ボタン類は青基調という、RoyaleとZuneの中間のようなデザインが特徴です。

サードパーティー製ビジュアルスタイル

Windows XPの標準設定では利用できるビジュアルスタイルが限られていましたが、システムファイルである`uxtheme.dll`を改造するパッチを適用することで、コミュニティによって作成された様々なデザインのビジュアルスタイルを使用できるようになりました。これは、WindowBlindsのような高機能ながら動作が重いアプリケーションを使わずにGUIの外観を変更したいユーザー、特に上級者に好まれた手法です。インターネット上には多くの非公式なビジュアルスタイルが配布されていましたが、システムファイルの改造は自己責任で行う必要がありました。また、`uxtheme.dll`の改造だけでは変更できないログオン画面なども含め、より広範囲なUI要素の変更に対応したStyleXPのようなシェアウェアも存在しました。

アプリケーション開発におけるビジュアルスタイル

Windows XP以降の環境では、Lunaなどの新しいビジュアルスタイルを適用したアプリケーションと、クラシックスタイルのアプリケーションが同時に動作することが可能です。これは、Windows XP以降に搭載された「分離アプリケーション」と「Side-by-Sideアセンブリ（WinSxS）」と呼ばれる技術によるものです。この技術により、アプリケーションごとに異なるバージョンのコモンコントロールライブラリ（`comctl32.dll`）を使用するように指定できます。Windows XPには`comctl32.dll`のバージョン5（クラシック対応）とバージョン6（ビジュアルスタイル対応）が共存しており、WinSxS技術によって、バージョン6以降を使用するアプリケーションにはビジュアルスタイルが適用され、バージョン5を使用するアプリケーションはクラシックスタイルで表示されました。

アプリケーション開発においてビジュアルスタイルを有効にするには、コモンコントロールのバージョン6以降を使用することを指定する「アプリケーションマニフェストファイル」を作成し、実行ファイルのリソースとして埋め込むか、実行ファイルと同じフォルダに配置する必要がありました。マイクロソフトの主要な開発環境であるVisual Studioでは、バージョン2005以降でマニフェストファイルの指定が容易になりました。また、.NET Framework 2.0以降を使用したWindows Formsアプリケーションでは、`Application.EnableVisualStyles()`メソッドを呼び出すだけで簡単にビジュアルスタイルを適用できるようになりました。Windows Presentation Foundation（WPF）アプリケーションの場合、基本的な描画はコモンコントロールライブラリではなくXAML描画エンジンで行われますが、メッセージボックスなど一部でコモンコントロールが使用される他、Windows XP上では`PresentationFramework.Luna.dll`のような専用のテーマアセンブリが自動的に読み込まれ、WPFコントロールにもLuna風のデザインが適用されることがありました。

後継OSでの扱い

Windows XPの後継であるWindows Vistaでは、Lunaは基本的に廃止され、より先進的なデザインを持つ「Windows Aero」インターフェースが導入されました。Aeroは半透明効果や3Dグラフィックスを多用した、より動的なデザインが特徴です。ただし、Windows VistaのHome Basicエディションや、他のエディションでもデスクトップコンポジション（Aeroの根幹技術）を無効にした設定では、Windows XPに近い外観を選択することもできましたが、これはLunaそのものとは互換性がありませんでした。

Lunaは、Windows XPというOSを象徴する視覚的要素として、多くのユーザーに記憶されています。

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